〈自衛隊統合演習〉川崎市の民間病院で、自衛隊と病院共同の軍事訓練が行われた。

 

 戦争が起こらないようにすること(起こさないようにすること)、ではなく、戦争が起こった後どうするか。政府・〝防衛〟省・〝自衛〟隊は、そのことに、異様なまでに前のめりだ。

 実戦態勢の「抜本的」な強化、特に「継戦能力」の強化が、昨年末の「〝安保〟3文書」で掲げられた。粘り強く、持久戦を戦っていけるように…相手の攻撃に耐えながら、少しでも残存率を高め消耗戦を戦い続けていけるように、長射程・新型ミサイルの開発、ミサイルの大量生産・大量配備、軍需産業の強化、全国の弾薬庫増設、基地の強靭化、司令部・自衛隊病院などの地下化、輸送能力・機動展開能力・兵站機能の強化、そのための全国の民間空港・港湾の改修と軍民共同利用、住民避難計画、戦時医療体制の強化、などが進められている。琉球弧の島じまは、相手の射程圏内の戦域と位置づけられた。その中で、多数の攻撃拠点と機動展開・兵站拠点を分散させ持久戦を遂行する…そのような作戦に最適化するために、琉球弧の全域がつくり変えられようとしている。

 民間空港・港湾を自衛隊や海上保安庁がいつでも円滑に利用できるように、琉球弧を中心に、「特定重要拠点空港・港湾(仮称)」指定に向けた動きが活発化している。

 今回の「自衛隊統合演習」(11月10~20日/日米共同・4万人規模)では、「民間空港・港湾」が演習の「実施場所」としてプレスリリースにも明記された。戦時の「民間」の利用が主要なテーマのひとつになっているようだ。空自基地が攻撃を受けて使えなくなったので民間空港を使う、原発が攻撃され防護する、自衛隊員が負傷し病院に後送する、戦死者が出たので仮埋葬する、といった設定で…。
 プレスリリースの「実施場所」の(3)には18の自治体名が並んでいる。そのトップに「川崎市」とある。川崎のどこでどんな訓練が行われるのか。川崎市にも事前連絡はなかったらしい。「沖縄の映画を観よう!かわさき」の皆さんが直接防衛省の統合幕僚監部に問い合わせて、11月13日(月)に川崎市麻生区にある「新百合ケ丘総合病院」で、負傷した自衛隊員を搬送するという想定の実動演習が行われることが分かった。午後3時に、自衛隊のヘリコプターが飛来する。

 

外傷再建センター
 新百合ケ丘総合病院に2020年に新設された「外傷再建センター」。そこは「外傷のスペシャリストが集結する全国でも稀有な治療拠点」だという。

全国的にもめずらしく、ひとつの外傷再建チームで一貫して皮膚から骨までの幅広い外傷治療が行えます。

主な対象疾患:●手外科 ●切断四肢の再接着・再建治療 ●関節内骨折 ●難治性骨折・感染性偽関節 ●重度四肢開放骨折・組織損傷 ●多発外傷・骨盤外傷

治療の遅れが死に繋がる危険性の高い重傷外傷や腹部外傷、四肢や手指の切断から、四肢・脊髄・骨盤の骨折や高齢者の骨折など、すべての外傷患者さんを対象とし、外傷後の障害に対する再建治療も得意としています。

新百合ケ丘総合病院は、現在は2次救急を担っており、重症外傷は運ばれてきません。そのため、救命を担う他院の3次救急で命が救われた重度外傷患者さんを、なるべく早く当院の外傷再建センターに搬送し、機能再建に取り組むような連携、協力関係を広げていきたいと思っています。
当院ではヘリポートも稼働していますから、将来的にはヘリコプター搬送も利用した広域かつ24時間受け入れ可能な外傷治療体制を築いていきます。

(メディコンパス ドクターズインタビューvol.37 松下隆先生、2022年11月取材 より)
(参考▶新百合ケ丘総合病院HP 外傷再建センター) 
 
 おそらく自衛隊にとって、戦場で負傷した隊員の後送先として、これほどうってつけの病院はないのだろう。「継戦能力(持続性・強靱性)」の観点からすると、「後送作戦」の主目的は負傷した自衛隊員をふたたび戦場へ戻すことだと思われる。「急性期を脱して命が救われても、外傷の治療がおろそかにされれば、いろいろな障害が残ってしまいます」「命を助けることと、機能の回復を、できる限り最大限のバランスで行うのが外傷専門医の務めであり、手や脚の運動機能を元通りに回復させることは、とても大切な医療なのです」と、新百合ケ丘総合病院外傷再建センター長の松下医師はインタビューに答えている。

 「離島における大量傷病者」が発生する。「師団収容所」や「野外病院等」に搬送され応急処置・応急治療が施され「本島」の病院(那覇自衛隊病院)に運ばれる。さらに状況に応じて九州や関東の自衛隊病院へ後送し専門治療を…。(下図参照)
 埼玉県の入間基地には「航空医学機能」を備えた「飛行場隣接」の「新病院」として、2022年3月「自衛隊入間病院」が開院された。東京都世田谷区と目黒区にまたがる「三宿地区」には、「最終後送病院」として「自衛隊中央病院」がある。これらの自衛隊病院などで命が救われた重度外傷患者を新百合ケ丘総合病院の「外傷再建センターに搬送し、機能再建に取り組むような連携、協力関係を広げて」いくことが目指されているのだろうか。民間の最先端の技術の徴用が狙われている。

 「国家防衛戦略」は、「自衛隊衛生については、これまで自衛隊員の壮健性の維持を重視してきたが、持続性・強靱性の観点から、有事において危険を顧みずに任務を遂行する隊員の生命・身体を救う組織に変革する」としている。
 
『「自衛隊病院等在り方検討委員会」報告書(要約版)』2009.8.28より  

『防衛力の実効性向上のための構造改革推進に向けたロードマップ』2011.8より

『防衛力の実効性向上のための構造改革推進に向けたロードマップ』2011.8より

『防衛白書』2023より



 新百合ケ丘総合病院の屋上にあるヘリポートには、「ドクターヘリは来る」という。しかしドクターヘリは神奈川県に2機しかなく、風に弱いという欠点がある。だから災害時には自衛隊ヘリの活躍が期待されているそうだ。ただ、自衛隊のヘリはドクターヘリより重い。病院のヘリポートが自衛隊ヘリの重さに耐えられるか、試しておかなければならない。今回は横須賀方面からの侵入ルートで試してみた(おそらく自衛隊横須賀病院からの搬送を想定)。
 「想定は負傷した自衛隊員の搬送だけれど、戦争のためではないです。災害の時も同じように自衛隊のヘリが来るかもしれないのだから」と、病院関係者は話した。





 「沖縄の映画を観よう!かわさき」は11月7日、川崎市長宛に下記の申し入れを行った。

 今回の実動演習は全国で展開されるもので、自衛隊の災害派遣に伴うものではありません。
 このような演習が、川崎市に全く協議や連絡がなく行われようとしています。
 そこで、お尋ねします。
1 川崎市に事前の協議、連絡がなかったことに関して問題はなかったのでしょうか。
2 自衛隊のヘリはドクターヘリ等と異なり、大きな騒音を発します。
  近隣の住民への周知、説明は行われるのでしょうか。
3 行われる場合はどのように又、誰が行うのでしょうか。
4 災害派遣ではない負傷者の運搬とは戦傷者の運搬です。これは川崎の北部などが戦場となると考えて良いのでしょうか。


 これに対し、川崎市から「回答しない。その理由も言わない」との連絡があったそうだ。



 
 11月13日、午後2時すぎ、新百合ケ丘駅近くのガソリンスタンドに1台の自衛隊のジープが停車。病院近くの月極駐車場には1台の自衛隊トラック。新百合ケ丘総合病院に着くと、迷彩服を着た数人の自衛隊員が敷地内を歩いていた。
 午後3時ちょうど、自衛隊のヘリが飛来。かなりの騒音。木の葉が舞った。着陸後、ヘリの姿は地上からは見えないが、エンジン音・回転音が鳴り続けた。離陸後、自衛隊の救急車両など、4台ほどの軍用車両が救急搬入口と近くの月極駐車場を行き来した。
 救急搬入口前と、ヘリポートの真下の病院入り口前で監視と抗議を行った。ほとんど報道もなく、直前の呼びかけだったが、35人の市民が民間病院での戦争訓練に抗議の声を上げた。
 午後4時すぎ、抗議行動はいったん終了。その後も居残った方々が、病院責任者に申し入れ書を読みあげ手渡したとのこと。午後5時頃、神奈川l県警に守られながら自衛隊車両は帰っていった。













 
 ▶「琉球弧の軍事基地化に反対するネットワーク」のレポート 11月14日ブログ

 殺し合いのサイクルの中に、戦時医療・後送態勢がある。それは戦争の遂行に不可欠なもので、戦争の一部だ。軍隊が民間病院に戦争の準備に協力させる、というとんでもない事態を見過ごすわけにはいかない。そして、なぜ多数の戦傷病者が発生することを想定しているのか、なぜ国が総力をあげて「戦争が始まった後」のための準備ばかりを行っているのか、厳しく問われなければならない。
 
 
 「〝安保〟3文書」改定からもうすぐ1年、琉球弧を最前線とする日本全国の本格的実戦態勢・戦時体制づくり5カ年計画の5分の1が過ぎようとしています。これ以上、進めさせるわけにはいかない。ひとつひとつに、もっともっと、声を。
 
 
  
▼参考▼

10月14~31日に実施された「レゾリュート・ドラゴン23」と称する日米共同訓練での「衛生訓練」
3月に「戦後」初めて軍事基地が開設されたばかりの石垣島で、「石垣駐屯地」から負傷兵を陸路で新石垣空港(民間空港)に運び、陸自オスプレイで島外へ後送する訓練が日米共同で行われた。

「那覇基地」と「自衛隊那覇病院」で、陸自ヘリCH-47による負傷兵後送訓練など、日米共同の衛生訓練が行われた。

奄美大島の「瀬戸内分屯地」から沖縄島の嘉手納飛行場へ、米海兵隊オスプレイMV-22による負傷兵を輸送する訓練が行われた。(「模擬死傷者輸送を実施」と在日米軍司令部のtwitter)

鹿児島県と宮崎県にまたがる「霧島訓練場」や大分県の「日出生台演習場」でも日米共同の衛生訓練が行われた。
 
 
teitterより

 


 
11月10~20日の「自衛隊統合演習」での「衛生訓練」
徳之島、久米島および艦艇で負傷した自衛隊員を、自衛隊ヘリCH-47で那覇基地~自衛隊那覇病院へ後送する訓練を11月17~18日に予定。
那覇病院で治療を施した隊員を自衛隊輸送機C-130で春日基地~自衛隊福岡病院へ後送する訓練を11月18日に予定。
この一環として、「隊員戦死・遺体取扱い訓練」が実施されるらしい。仮埋葬や臨時の遺体安置所の設置が想定されているとの報道があった。

与那国島では町主催の防災訓練と連携し、自衛隊の大型輸送ヘリと輸送艦を使った住民避難と患者後送を支援する訓練を11月12日に実施した。雨と強風の中、6時間にわたって展開されたその様子は、どう見ても軍事訓練だったという。
 

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