パレスチナ/琉球弧、停戦を求めるアメリカ大使館前抗議にて

 2023年12月30日。
「Protest for Ceasefire at US embassy 停戦を求めるアメリカ大使館前抗議」
で、琉球弧の島じまのことをお話しする機会をいただきました。関係者の皆さん、聞いてくださった皆さんに感謝します。以下、スピーチ原稿を掲載します。



いま、パレスチナで起こっていることがあり、同時に、沖縄を含む琉球弧の島じまで起こっていること、があります。一方ではあまりにもひどいジェノサイド・民族浄化が起こっています。どちらにも同じように焦点を合わせるのは難しいことかもしれません。でも、どちらも目をそらしてはいけない問題で、つながっている問題です。そのことをお話しできたら、と思います。

琉球弧の島じまで暮らす人びとが、「島じまを戦場にするな!沖縄戦をくり返すな!」と訴えています。そう叫ばざるを得ないような状況に、いま立たされています。それを言わせてしまったのは、「本土」と呼ばれる東京や埼玉に暮らす私たちです。それが、私たちに突き付けられた言葉だということを、まず言っておきたいと思います。

いま、世界中の人びとが、パレスチナのために声をあげています。でも、自戒を込めて言いますが、もっと早く声を上げなければならなかった。これだけ多くの人が立ち上がるためには、こんなにも圧倒的な暴力と犠牲が必要なのかと、思ってしまいます。そして、琉球弧のことを考えてしまいます。

いま日本で進められている大軍拡、それははっきりと、琉球弧の島じまへの暴力、という性格をあらわにしながら加速していて、ひどい状況なんです。だけど、もっともっと圧倒的にひどい状況にならなければ大きな声は上がらないのだろうか、と思ってしまうのです。

琉球弧の島じまが勝手に「最前線」と位置づけられて、与那国島、宮古島、奄美大島、そして石垣島に自衛隊の新基地が造られ、地対艦ミサイル部隊を主力とする新部隊配備が進められてきました。この、中国を包囲し海峡を封鎖するための、アメリカの戦略をベースとする軍備強化を、「南西シフト」と呼んでいます。「南西シフト」の問題は、少なくともこの10年以上にわたって、日本の軍事政策の中心であり続け、それにもかかわらず、「本土」と呼ばれる〝ちょっと大きな島〟に住む私たちが放置してきた問題です。

それは、植民地主義の問題であり、植民地主義を、見えないように温存させてきた社会の問題であり、それを見ないで済ませてきた私たちの問題であるという点で、イスラエルの問題と共通していると思います。


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日本は、欧米の植民地主義を真似て近代国家となり、琉球王国を武力で併呑して以来、現在まで、日本政府はず〜っと沖縄・琉球弧の島じまを踏みにじってきました。

「石垣島には戦争という言語がありません」と、「いのちと暮らしを守るオバーたちの会」の山里節子さんは言います。そんな、戦争という概念すらなかった平和な島じまが、戦場とされ、日本の敗戦後は日米安保体制のもと、徹底的に軍事利用されてきました。

「東西冷戦」が終了し、ソ連という最大の「脅威」がなくなった1991年以降、日米安保は「再定義」され、安保体制は軍事同盟へと変化していきます。そして、新たな「脅威」として台頭する中国が発見されて、それまではアメリカの戦争の「出撃拠点」「後方支援拠点」として利用されて来た沖縄が、アメリカの新たな対中戦略の要所として、琉球弧の島じま全体を含むかたちで「島嶼防衛作戦」の「最前線」と位置づけられていきます。

2005年の日米合意で、日本は、島じまへの侵攻に対し「自らを防衛する」ことになりました。琉球弧での戦争は日本の自衛隊が主体的に行い、米軍はそれを支援する、という方針が決められたのです。

2010年以降、この「南西シフト」が本格的に動き始め、与那国、奄美、宮古、石垣、と、次々に基地が造られて「南西シフト第一段階」完成のめどが立った2021年、アメリカは国の軍事戦略の軸足を、このアジア太平洋地域に移しました。そして、「南西シフト」は「第2段階」へと一気にエスカレートしていきます。「台湾有事キャンペーン」が開始され、「台湾有事」を想定した日米共同作戦計画の策定が進み、2022年12月、政府が「戦後の防衛政策の大きな転換点」だとする「安保3文書改定」が行われました。

「安保3文書」には、「継戦能力」の強化が掲げられています。戦争を続ける能力が必要だというのです。沖縄戦さながらの「持久戦」態勢をつくろうというのです。

アメリカの戦略文書※などを見ると、中国に島じまを攻撃させることが前提になっています。たくさんの部隊がたくさんの島々に分散展開する。つまり、島じまに標的をたくさん用意して、なるべく長く生き残って、長く戦争を続けて、中国になるべくたくさんミサイルを撃ち込んでもらって、中国に軍事資源を浪費させる。そんなことになったら、琉球弧は草木も生えないような死の島じまになってしまいますが、それが「米国を支援」することになるというのです。

日本政府は「防衛のため」と人びとをだまし、島じまを奪い取り、島を守るためでも日本を守るためですらない軍事戦略をもとに、沖縄戦さながらの「持久戦」態勢をつくるために、基地の強化ばかりか、民間空港や港湾など軍事施設以外の公共空間を含む、琉球弧の島じま全域を徹底的につくり変えようとしているのです。


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おかしいと思いませんか。米中対立、と言われています。アメリカ・日本と中国が、ワシントン・東京と北京が、軍事的に睨み合っています。でもなぜか、そのことによって生じる暴力は、すべて、琉球弧の島じまや、台湾などの、〝狭間〟の地域に注がれるのです。おかしいと思いませんか。

このおかしさの中に、この問題の本質がある気がします。

なぜ、大国同士が覇権争いをするために、琉球弧の島じまが犠牲にならなければいけないのか。
なぜ、イスラエルという国は、アパルトヘイト国家として誕生し、パレスチナが犠牲にならなければいけないのか。


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パレスチナの人びとが故郷を奪われ、「絶滅収容所」とまで言われるガザに押し込められ度重なる攻撃を受けて、さらに「避難」の名目でガザからも追い出されようとしていて、
与那国島では、ミサイル部隊の配備と基地の拡張、さらに巨大軍港建設や民間空港の軍事利用が計画され、危険だからと、全住民を九州に「避難」させる計画まで策定されようとしています。

そんな収奪を、許すわけにはいきません。
 
いますぐ停戦を! そして、決して、停戦がゴールではなく、イスラエルが占領をやめるまで、声を上げ続けること、

琉球弧では、島々を戦場にさせない! でもそこが目標ではなく、島じまに暮らす人たちが、もう二度と「島々を戦場にするな」なんて言わなくてもすむように、島じまが軍事緊張による圧迫から開放されるまで、自分の問題として闘い続けること、

そのことが、地に足をつけて生きる人びと・私たちが、植民地主義による支配から脱し、世界のどこかで、次の虐殺、次の戦争が起こることを、防ぐことにつながっていくと思います。
 
 
石井信久(島じまスタンディング)
 

 
注※アメリカの戦略文書 たとえば…
 
2019年にアメリカのシンクタンクSCBA(戦略予算評価センター)が発表した『海洋プレッシャー戦略』という、今のアメリカの対中戦略の基礎になっていると言われる報告書から…
 
「この戦略は、第一列島線内の島々(※主に琉球弧を想定)を中国の攻撃に耐えうる防衛上の要所に変えることで、地域をアメリカに有利に利用するものである。」

「第一列島線に沿って、(略)、米軍と同盟国の地上配備のミサイルの量を増やす事で、残存率の高い精密攻撃ネットワークを構築する」
 
202年にアメリカのランド研究所が発表した『東シナ海有事における日本の潜在的貢献』という、日本の「安保3文書」策定に大きな影響を与えたと言われる報告書から…

「南西諸島と同様の部隊を、与那国、石垣、宮古、奄美大島に、最終的に計画された規模や面積よりも多く配置する戦略的必要性は間違いなく存在する。(略)、これらの部隊を島々に分散させれば、有事の際、中国はこれらの部隊を追跡するのに時間と労力を費やし、部隊を破壊するために弾薬を浪費せざるを得なくなる。」

「量的にも、中国との武力衝突で自衛隊が勝てるとは思えないが、(略)、日本は中国が迅速に勝利することを非常に困難にし、(略)、東シナ海有事における中国のリスクを高め、日本は米国を支援するために戦闘に参加し続けることが可能になるのである。」

…「残存」や「分散」がキーワードとなっている。相手の射程圏内の島々に小規模部隊が分散展開する、という米海兵隊の「EABO(機動展開前進基地作戦)」や、EABOをベースに策定されているという日米共同作戦計画に通じる。
日本の自衛隊は…
 
「現代戦の特性を考えると、侵攻する敵を排除するための攻撃能力もさることながら、敵のミサイルによる飽和攻撃や宇宙・サイバー・電磁波領域からの攻撃に対して、被害を局限して健在するとともに、持続的に作戦を遂行する必要があります。
領域横断作戦とEABOとの共通点については、どちらの部隊とも作戦当初から戦域内に所在する〝スタンド・イン・フォース〟として、あらゆる領域からの攻撃に対して部隊を防護し、持久して作戦を遂行するという点にあります。」
  
…陸上自衛隊ホームページ「領域横断作戦と機動展開前進基地作戦(EABO)を踏まえた連携~レゾリュート・ドラゴン21~」よりー太字は引用者。










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