「立憲野党」ー〝安保〟政策の現在地

 

 2024年10月の衆院選の結果、与党以外の勢力が大きく議席を増やしました。

獲得議席数(カッコ内は選挙前の議席数)※開票終了時点
与党 215(279)与党以外 250(186)
自民 191(247)、公明 24(32)
立憲民主 148(98)、日本維新の会 38(44)、国民民主 28(7)、れいわ新選組 9(3)、
共産 8(10)、参政 3(1)、保守 3(0)、社民 1(1)、他 12(22)


 増やしましたが、そのことが、いま進められている大軍拡・戦争準備をとめる力となり得るのでしょうか。与党以外の政党の政策は、そういう方向性を持っているのかどうか、確認していきます。

■共産・社民・れいわ 南西シフトに反対しているのは3党だけ

 琉球弧の軍備強化・南西シフトについて、「日米安保/日米同盟」のレベルから明確に反対しているのは、共産党社民党です。れいわ新選組も、「南西諸島のミサイル基地化は行わない」と衆院選の「基本政策」に明記しています(前回・2021年の衆院選では、この問題についての記述はありませんでした)。

憲法を壊す「戦争国家」づくりの唯一、最大の理由は「日米同盟強化」です。「日米同盟」と言われると思考停止に陥り、憲法さえも踏みにじる政治が日本を覆っています。
日本共産党「2024総選挙政策」より 

「対米従属」が極まった日本の政治は、日本を戦争に引きずり込む「日米安保」の危険性に正面から向き合うことはありません。社民党は、いま迫る「戦争」に反対の声を上げ続けます。
社民党「第50回衆議院選挙 重点政策」より 
 
社民党「第50回衆議院選挙 重点政策」より

 
  以上、南西シフトに反対しているのはこの3党のみです。さらに言えば、「安保3文書」の大軍拡に反対しているのも、この3党のみです。あくまで「政党」という基準ですが、議席数で言うと、465分の18です。

日本共産党の総選挙政策 ▶https://www.jcp.or.jp/web_policy/
社民党の重点政策▶https://sdp.or.jp/2024-50-policy/
れいわ新選挙組の基本政策▶https://sdp.or.jp/2024-50-policy/


 立憲民主党は「南西諸島の防衛力整備」について、こんな書き方をしています。

南西諸島の防衛力整備については、住民との十分な対話と丁寧な手続きを前提として、国民保護の徹底を図ります。国民保護法とその運用が、国民の生命及び財産を守るものとして真に機能するかどうか、今一度総点検するとともに、緊急一時避難施設の強化及び指定の拡大を図りつつ、住民の理解を得ながら既存の地下施設の少ない南西諸島を中心に、地下施設を整備します。
立憲民主党「政策集2024」より


 なんだか、日本語がおかしい。いつのまにか「国民保護」の話になっていて、「南西諸島の防衛力整備」をどうしたいのか、明言を避けているようにも見えます。しかしよく読めば、「言うまでもない」ことなので省略しているだけだと分かります。そして「安全保障」政策の他の部分を読めば、どうしたいのかがよく分かります。
(前回の衆院選でも政策集には明記せず、市民グループのアンケートの中で「南西諸島への自衛隊配備を見直しますか?」の問いに、「南西地域の島しょ防衛の強化は必要です。自衛隊の配備については不断の見直しを行います」と答えていました。)



■■立憲民主党の「安全保障」政策
 

日本国憲法が掲げる平和的生存権の理念に立脚した平和外交と専守防衛の安全保障政策に徹することこそ、危険かつ不毛な防衛費増大・軍拡競争とその行き着く果ての戦争を回避し、真の意味で、国民の生命、自由及び幸福追求権を守ることができる。憲法9条の改悪や専守防衛を逸脱する集団的自衛権の行使・敵基地攻撃能力の保有を容認せず、辺野古新基地建設等基地の強化ではなく、基地負担を軽減する。非核三原則の遵守など、核兵器廃絶をめざして、努力する。
(市民連合が10月7日~8日に立憲野党…立憲民主党・共産党・社民党・沖縄の風…と確認した政策合意書「市民の生活を守り、将来世代に繋げる政治への転換を」 の第1項〈憲法も国民生活も無視する軍拡は許さない〉)


 市民連合は10月8日、立憲民主党に政策合意の要請を行い、野田佳彦立憲民主党代表は、要請書をしっかり受け止めると答えました。
▶市民連合ホームページ https://shiminrengo.com/archives/7628

 立憲民主党の「政策集2024」の「外交・安全保障」を、市民連合との政策合意書と照らし合わせてみると、「現行の安保法制については、立憲主義および憲法の平和主義に基づき、違憲部分を廃止する等、必要な措置を講じ、専守防衛に基づく平和的かつ現実的な外交・安全保障政策を築きます」「他国領域へのミサイル打撃力の保有・行使については、政策的な必要性と合理性を満たし、憲法に基づく専守防衛と適合するものでなければなりません」「辺野古移設工事は中止し、沖縄の基地の在り方を見直して米国に再交渉を求めます」「非核三原則を堅持し、不拡散・軍縮のための取り組みに積極的・能動的な役割を果たしていきます」と、おおむね政策合意に沿う内容になっています。

 しかし、政策合意書は、琉球弧(南西諸島)の自衛隊強化や、継戦能力について触れていません。つまり、本題に触れていない。あれほど防衛省が、島嶼!離島!南西!と叫び続け、琉球弧での作戦計画・戦争を遂行するための継戦能力の強化におおわらわになっているというのに。「辺野古新基地建設等基地の強化」と、「等」に紛れ込ませたのでしょうか。
 ここをしっかり押さえなければ、相手はするりと身をかわしてしまう。あるいは合意のために、そういう余地を残したのでしょうか。

 立憲民主党の政策集には、あのおなじみのフレーズが出てきます。

日米安保条約に基づく日米安保体制は、わが国自身の防衛体制とあいまってわが国の安全保障の基軸です。(立憲民主党 政策集2024)

日米安全保障条約に基づく日米安全保障体制は、我が国自身の防衛体制とあいまって、我が国の安全保障の基軸である。(防衛大綱 2018.12)

 防衛大綱などの文書で、必ず出てくるヤツです。そして政策集の「安全保障」のところを一読すると、出てくるのは…「抑止力と対処能力を総合的に備えることは、現実的な安全保障戦略における重要な課題です」「わが国島しょ部などへの軍事的侵攻を抑止し、排除するためのミサイルの長射程化など、自衛のためのミサイル能力の向上を進めます」「自衛隊の継戦能力を強化します。弾薬の備蓄を増やし…」「自衛隊の施設の耐震化、空港・港湾施設の改修などによる抗たん性の向上」「基本的価値観を共有する世界の国々との二国間及びQUAD(日米豪印)、EU諸国など多国間の安全保障協力・交流を促進」「宇宙・サイバー・電磁波・認知戦等の全領域を統合した作戦能力を強化」「国内の防衛装備品の技術基盤・産業基盤の強化」「防衛装備品の国際共同開発・生産を進めていきます」

 つまり、しっかりと「安保3文書」に沿った内容に、なっているのです。

防衛省「国家防衛戦略(概要)」2022.12 より

防衛省「国家防衛戦略(概要)」2022.12 より


 次の「安保3文書関連法案」として法整備が準備されている「能動的サイバー防御」については、「サイバー攻撃は平時から発生しており、常時パトロールを行う『積極的(能動的)サイバー防御』(アクティブサイバーディフェンス、ACD)が必要とされます」「サイバー安全保障基本法のような包括的な立法を早急に検討します。また、より強い権限をもった司令塔組織、例えばデジタル庁と統合したサイバー省(仮称)の創設も検討します」としています。

 市民連合との政策合意に沿いながら、同時に、現政権の戦争政策にも付き従う。表面の皮を一枚剥がせば、中身はとんでもないものだった。2021年の「政策集」からも、はるかに後退しています。これを、市民は、根本的に変えさせることができるか。

ミサイルの長射程化について、2021年の「政策集」では「『敵基地攻撃能力の保有』『スタンド・オフ・ミサイル』については、実際に島嶼部での防衛能力強化に資するのか、専守防衛から逸脱する恐れはないのか等について、これまでの憲法解釈に照らしつつ、慎重な検討を行います」としていた。
2021年の「政策集」には「防衛装備移転三原則を規制強化の方向で見直します」という文言があった。
※立憲民主党「政策集2024」のリンクは ▶https://cdp-japan.jp/visions/policies2024/18
全文は下↓にもあります。



■■■国民民主党の「安全保障」政策

国民民主党ホームページより

 国民民主党は、「自分の国は自分で守る」をスローガンに掲げています。さらに、「米国に過度に依存し過ぎている日本の防衛体制」を問題視し、日米ガイドラインを見直しを行うとしています。ということは、脱対米従属・自主防衛路線かと思いきや、そうではありませんでした。

…米軍の東アジアにおける前方展開戦略及び戦力投射能力の優位性は相対的に低下しつつあります。このような戦略環境において我が国の防衛とインド太平洋における安定確保のためには、米軍の前方展開を確保するとともに、日米同盟において我が国がより主体性を発揮することが重要になります。また、米海兵隊による機動展開前進基地作戦(EABO:expenditionary Advanced Base Operations)、米海・空軍による攻撃部隊の展開支援及び米陸軍が遂行するマルチドメイン作戦(MDO:Multi-Domain Operations)を支援(防衛協力)できる態勢を確保することは日米同盟を強化するとともに抑止力を高めるために重要です。
「国民民主党の安全保障政策2022」より 

 琉球弧の島じまを使い勝手の良い戦争拠点としか考えないアメリカの、琉球弧を徹底的に蹂躙する対中国戦争戦略・作戦を、「我が国がより主体性を発揮」して支援するという、悪夢のような主体的対米従属路線でした。

 「アクティブ・サイバー・ディフェンス(ACD)について、能力整備と実施体制の整備を行うとともに、『サイバー安全保障基本法(仮称)』を制定します」など、立憲民主党との共通点も数多くあります。


  「戦後日本が追求してきた『平和主義』と『専守防衛』といった重要な安全保障政策はこれを堅持」「非核三原則は堅持」「辺野古の埋め立ては一旦停止」などとしながらも、「安保3文書」の戦争態勢づくりに沿った政策になっています。「安保3文書」に付き従う姿勢は、野党の中では立憲民主党と国民民主党が際立っていると思いました。

 南西シフトについては、「尖閣諸島を含む南西諸島の防衛については更なる防衛態勢の強化が必要」と明記。

「国民民主党 2024年 重点政策」より

※「国民民主党の安全保障政策2022」のpdfは ▶https://new-kokumin.jp/wp-content/uploads/2022/12/04bb86651d010c4a9e3938877d461c83.pdf
全文は下↓にもあります。



■■■■日本維新の会の「安全保障」政策


 日本維新の会は、「積極防衛能力」の強化を掲げ、

「まずはGDP比2%を一つの目安として(防衛費を)増額することを目指し」「『専守防衛』の定義のうち、防衛力を行使する態様、保持する防衛力等に係る『必要最小限』に限るとの規定・解釈の見直しに取り組み」「自衛官等の殉職者への追悼のあり方についても、国家として適切な取り扱いを定めます」「憲法第9条については、平和主義・戦争放棄を堅持した上で、自衛隊を明確に規定」「集団的自衛権行使の要件を明確化するため、現行の『存立危機事態』の要件に代えて、『米軍等防護事態』(日本周辺で、現に日本を防衛中の同盟国軍に武力攻撃が発生したため、わが国への武力攻撃の明白な危険がある事態)を規定」「わが党が提出した経済安保実行化法案に盛り込んだ罰則の適用や実施能力の強化」「米国のCIAのような『インテリジェンス』機関を創設するとともに、諸外国並のスパイ防止法を制定」などとしています。


 ※「政策提言 維新八策2024」は ▶https://o-ishin.jp/policy/
「個別政策集」の「外交安全保障」の全文は下↓にもあります。



◆日米地位協定

 日米地位協定については、多くの政党が見直し・改定を主張しています。それなのになぜできないのか、と思います。日米安保体制からの脱却を前提とする地位協定改定から、より良い日米安保体制のための地位協定改定まで、振れ幅はありますが、地位協定は一刻も早く改定すべきです。

自民「地域住民の方々の安全・安心の確保を最優先の課題として、米国政府と緊密に連携の上、在日米軍による事件・事故の防止を徹底し、日米地位協定のあるべき姿を目指します。」

共産「相次ぐ犯罪に加えて、異常な低空飛行など米軍の横暴勝手の根底には、屈辱的な日米地位協定があります。(中略)このような植民地的特権を保障した日米地位協定が、1960年の締結以来、一度も改定されていないことは、まともな主権国家ではありえない異常極まることです。(中略)日米地位協定を抜本的に改定し、世界に例のない米軍の特権をなくします。」

社民「日米地位協定を全面改定します」「社民党は軍事同盟基軸の日米安保体制ではなく、対等・平等な友好協力関係を定める『平和友好条約』への転換を主張しています。日米地位協定の改定はその大前提です。」

れいわ「日米友好の前提のもとで『対米追従外交』から脱却し、安保法制の見直し、日米地位協定の改定、辺野古新基地の中止をすすめます。」

立憲「日米地位協定については、改定を目指しつつ、現状の基地問題の早期解決に向けて、米国側と交渉できる現実的な提案を行っていきます。」

国民「日米地位協定の見直し、沖縄基地問題の解決を目指します。」

維新「日米が対等の関係に立つことが同盟の維持には不可欠であるとの認識の下、米軍人、米軍族等の犯罪行為に厳正な態度で臨みます。特に沖縄県民はじめ日本国民の生命、身体、財産を守り、法の下の平等を保障するため、日米地位協定を抜本的に見直します。」

参政「日米地位協定、日米合同委員会、およびこれまでの合意議事録を解消し、ドイツやイタリア並み、もしくはそれ以上の対等な関係を構築し真の友好国、同盟国になるための新日米同盟締結の推進」


 

 
 
◆■◆■
 
立憲民主党 政策集2024
 
外交・安全保障
 
世界の平和と繁栄への貢献
 
    •    世界の平和、安定と繁栄を推進するために、自由、民主主義、法の支配、基本的人権の尊重に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化を推進し、国際法の諸原則を基礎とした国際的なルール作りを主導するなど、積極的な平和創造外交を展開します。専守防衛に徹しつつ、時代の変化に対応した質の高い防衛力の整備を通じて現実的な安全保障政策を推進し、責任をもって国民及び領土・領海・領空を守り抜きます。

    •    米中対立、グローバルサウス諸国の台頭など世界的なパワーバランスに変化が生じている中、ウクライナ侵略、中東情勢など国際社会は緊迫した状況にあります。こうした環境で日本は、健全な日米同盟を基軸とし、共に米国の同盟国である韓国との協力を進め、アジア太平洋地域をはじめとした世界との共生を実現します。近隣諸国との人的交流を大幅に拡充し、国民各層の相互理解を深め、日本の未来を見据えた外交戦略を進めます。

    •    中国との向き合い方は現下の最大の外交課題です。中国との間には尖閣諸島をはじめさまざまな懸案はあるものの、中国との安定した友好的な関係の構築は安全保障環境の改善に最も大きな影響があります。中国のTPPへの参加など安定した「協商関係」を築く必要があります。首脳会談をはじめ緊密な意思疎通を行い、幅広い共通利益や協力の具体策を探ります。また、軍事レベルの信頼醸成の取り組み(安全保障対話)を活性化させ、不測の衝突を回避するためのホットラインを機能させます。

    •    アジア太平洋地域において、大国間の緊張緩和と信頼醸成のため、日米のみならず、日中韓を含めた ASEAN+3、米露豪印等も含めたEAS(東アジア首脳会議)、APEC、さらにはQUAD(日米豪印)の参加国を増やし、英仏独、ASEAN、時に韓国などを加えたQUAD+(プラス)に進化させていきます。国際協調主義に基づく、地域の航行と上空航空の自由と安全のためのルール作りなどをリードし、中国が「ルールを守る責任ある大国」として役割を果たすよう求めます。

    •    台湾海峡の平和と安定は、わが国の平和と安定に密接に関係しており、緊張が高まると、わが国に対しても大きな影響が及ぶことが想定されることから、両岸問題が平和的に解決されることが何よりも重要です。そのための外交努力、平時からの安全保障協力、わが国周辺地域の常時警戒監視、情報収集、台湾海峡情勢に関するハイレベルな情報交換を進めます。

    •    ロシアの侵略を受けたウクライナ、また、北朝鮮、ミャンマー、ウイグル、香港及びパレスチナ・ガザ地区などでの深刻な人権侵害に対して、国際社会とともに人権の蹂躙を即刻停止するよう働きかけていきます。人権侵害国や軍との宥和主義から決別し、人権侵害政府に対するODAを原則停止(ただし人道援助は継続)します。

    •    国際的な基本的価値である人権規範を強化すべく、「特定人権侵害行為への対処に関する法律」(日本版マグニツキー法)を制定します。国内外の人権保護の活動をするNGOへの支援を強化します。

    •    「人権外交」を主流化するため、人権担当大臣を任命します。人権の保護・促進を外交・開発援助の主要な目的として明確に位置付けます。人権尊重の原則に沿った、国際場裡での行動(投票、発言等)を徹底します。「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約」(ジェノサイド条約)を批准します。

    •    国際連合など多国間協調の枠組みに基づき、国際社会の平和と繁栄に貢献します。国際連合をはじめ、WTO等の国際機関の改革にリーダーシップを発揮します。宇宙・サイバー・AI・データなどの分野でのルール形成において主導的役割を果たします。国連安全保障理事会(安保理)が機能していない現状に鑑み、安保理の構成や常任理事国の拒否権の在り方、準常任理事国ポストの創設、総会決議の拘束力の在り方など加盟国と協力して改革していきます。

    •    ODA、JICA、NGOなどを通じて得た世界からの信頼を生かし、「人間の安全保障」を柱にしながら平和構築のための「ファシリテーター」(対話の促進者)を目指します。核兵器廃絶、人道支援、災害救援、経済連携、文化交流などを推進して「人間の安全保障」を実現するとともに、自国のみならず他の国々とともに利益を享受する「開かれた国益」を追求します。

    •    日本の国土や文化、日本国民の魅力等を積極的に発信していきます。わが国のソフトパワーに資するよう、歴史問題や領土保全に関する日本の正確な認識を含む、国際世論への戦略的な働きかけを中心とするパブリック・ディプロマシー(広報や文化交流を通じて世論に働きかける外交)を強化します。

    •    わが国への理解や交流の担い手を育てるため、海外での日本文化や日本語教育の普及、留学生の招へいに努めます。特にアジア太平洋・アフリカ諸国から積極的に留学生と高度人材を受け入れ、人事交流を盛んにします。またODAを活用しながら高度人材の育成に貢献します。海外留学支援、人材交流などを通してグローバル人材を育成していきます。海外在留邦人子女に対する日本語教育支援や、在外邦人コミュニティとの連携強化を推進します。

    •    国際社会での日本のイメージや影響力をさらに向上させるために、外交官・外務省職員及び国際機関や国際NGOで活躍する日本人を増やし、母子保健分野など日本の強みを生かした国際貢献を積極的に行います。外務省職員や在外公館等で活動する防衛駐在官を拡充し、情報収集・分析能力体制を抜本的に強化します。さらに、わが国のインテリジェンス(情報収集・分析能力)の強化のために、縦割りの弊害を排除し体制を抜本的に見直します。

経済外交・経済安全保障

    •    自由貿易体制の発展にリーダーシップを発揮します。アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現、日中韓FTA、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などの経済連携については、食料安全保障なども勘案し、日本の国益を守りつつ、より高度な自由化と質の高いルール形成に戦略的に取り組み、「開かれた国益」を追求し、全体利益の最大化に努めます。

    •    経済安全保障の観点から、「自由で開かれた経済」「民間主体による自由な経済活動」を最大限尊重しつつ、サプライチェーンの強靭化、先端技術の優位性確保、インフラセキュリティ強化などについて、実効性のある安全保障政策を推進します。

    •    幅広い分野で、知的財産の保護、情報セキュリティ、企業統治などを強化するとともに、通信・デジタル・クリーンエネルギー技術・宇宙などの経済分野に係る国際的なルールの形成を主導し、日本の優位性を確立するための「経済安全保障戦略」を策定し、総合的な国力の増進を図ります。

持続可能な開発目標(SDGs)2030アジェンダの達成、開発協力、地球規模課題、難民

    •    気候変動、食料問題など地球規模課題の解決に、国際社会全体の目標として国連サミットで合意された、持続可能な開発目標(SDGs)を踏まえつつ、主導的な役割を果たしていきます。

    •    「SDGs基本法」を制定し、SDGsの目標とターゲットを活用し、国全体で取り組み、誰一人取り残さない持続可能な社会の実現に貢献します。同法に基づいて内閣にSDGs担当大臣及びSDGs推進本部を置き、政策立案や政策評価にSDGsの17の目標と169のターゲットを活用し、あらゆる政策にSDGsの視点を反映させて、SDGsの国内外での達成を目指します。

    •    ODAの実施に当たっては「人間の安全保障」とSDGsを指針とし、自国の利益だけではなく、人類全体の共通利益を増進する「開かれた国益」を実現します。

    •    UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)等の国際機関やNGO、市民社会等との連携のもと、人権保護や平和構築など、世界各地の難民問題に関する国際的な取り組みを支援します。わが国の周辺事態での難民の発生について対応策を検討します。

核兵器のない世界の実現

    •    非核三原則を堅持し、不拡散・軍縮のための取り組みに積極的・能動的な役割を果たしていきます。唯一の戦争被爆国として、核兵器禁止条約へのオブザーバー参加などを通じて、核廃絶に向けた働きかけを行っていきます。NATO型核シェアリングについては、能力的にも NPT条約に鑑みても現実的ではなく、認められません。

    •    イランの核合意、中東和平といった国際的な平和への取り組みが危機に瀕し、北朝鮮の核兵器開発、核保有国であるロシアによるウクライナ侵略で、NPT体制が揺らいでいます。NPTをはじめ核軍縮・軍備管理体制の維持・強化を追求し、国際的努力を積極的にリードします。

安全保障

    •    世界的なパワーバランスの変化やロシアのウクライナ侵略のような国際秩序への挑戦も起きており、特にわが国周辺の安全保障環境は急激に変化しています。立憲民主党は専守防衛に徹しつつ、時代の変化に対応した質の高い防衛力の整備を通じて現実的な安全保障政策を推進し、責任をもって国民及び領土・領海・領空を守り抜きます。

    •    日米安保条約に基づく日米安保体制は、わが国自身の防衛体制とあいまってわが国の安全保障の基軸です。日米同盟のゆるぎない信頼性がわが国の安全保障にとって大前提であり、抑止力を高めることにつながることから、わが国自身の防衛体制を強化するとともに、健全な日米同盟の一層の強化を進めていきます。

    •    わが国の領域内にある「合衆国軍隊の装備及び配置における重要な変更」を行う場合は、日米安保条約の付属文書の取り決めに従った日本政府との事前協議の徹底を求めます。

    •    わが国周辺の弾道ミサイルをはじめとした脅威に対し、抑止力と対処能力を総合的に備えることは、現実的な安全保障戦略における重要な課題です。現在のBMD(弾道ミサイル防衛)の能力向上を確実に進め、極超音速滑空弾や巡航ミサイル、変則軌道の弾道ミサイルなど多様化・複雑化する脅威に対する対処能力の開発を進めるととともに、陸海空自衛隊の保持する防空能力を一体的に運用する体制の確立を進めます。

    •    わが国島しょ部などへの軍事的侵攻を抑止し、排除するためのミサイルの長射程化など、自衛のためのミサイル能力の向上を進めます。他国領域へのミサイル打撃力の保有・行使については、政策的な必要性と合理性を満たし、憲法に基づく専守防衛と適合するものでなければなりません。

    •    自衛隊の継戦能力を強化します。弾薬等の備蓄を増やし、弾薬の保管場所の偏り、部品等の不足を改善し、自衛隊の施設の耐震化、空港・港湾施設の改修などによる抗たん性の向上など、基礎的部分を底上げします。

    •    防衛力の強化や真に必要な防衛予算の一定の増額は理解しますが、令和5年から5年間で2倍、GDP比2%という総額ありきの急激な予算増は無駄や不正の温床になりかねません。防衛省・自衛隊では裏金接待問題や手当の不正受給など、不正が長期にわたって行われてきたことが明らかになりました。防衛監察の対象を拡大し、不適切な契約や不正が行われていないかなどについて徹底調査し、予算についても無駄や過剰になっていないか再度点検すべきです。また増額に伴う防衛増税が先送りされており財源確保のめども示されていませんが、増額と財源はセットで国民に提示すべきです。防衛増税は行いません。

    •    中国の一方的な主張に基づく、中国公船の尖閣諸島周辺における活動は活発化・常態化しています。平時の領域警備、警戒監視活動の強化及びいわゆるグレーゾーン事態への万全の態勢に備えて「領域警備・海上保安体制強化法」を制定するなど、中国による南シナ海での力による現状変更や尖閣諸島周辺でのわが国に対する挑発行為には毅然として対処します。

    •    北朝鮮は、かつてない頻度で弾道ミサイルを発射し、新型ミサイルの開発や運用能力の向上を図り、さらに核弾頭の小型化などの核武装の決意を明確にし、新たな脅威の段階に入りました。宇宙・サイバー・電磁波などの領域での新たな先端防衛技術の開発も含め、わが国のミサイル防衛能力・迎撃能力の向上を図り、極超音速兵器をはじめとする新たな脅威への対処能力の研究開発を加速させます。

    •    北朝鮮の完全な核・ミサイル廃棄に向けた検証可能で具体的な行動を促すために、国際社会が一致して行動するよう関係各国と連携するとともに、北朝鮮との直接対話など、拉致・核・ミサイル問題の解決に向けてあらゆる外交的な働きかけを行っていきます。

    •    現行の安保法制については、立憲主義および憲法の平和主義に基づき、違憲部分を廃止する等、必要な措置を講じ、専守防衛に基づく平和的かつ現実的な外交・安全保障政策を築きます。

    •    ロシアは、不法占拠している北方領土の実効支配、軍事拠点化を進めており、周辺での軍事活動を活発化させる傾向にあります。また、核兵器使用の可能性を示唆して脅し、ウクライナ侵略を強行したロシアの脅威は高まっていると言わざるを得ません。北方領土を含む、ロシア軍の動向の監視や対応を図る体制を一層充実させます。国際秩序の維持のためウクライナの支援を継続します。

    •    基本的価値観を共有する世界の国々との二国間及びQUAD(日米豪印)、EU諸国など多国間の安全保障協力・交流を促進しつつ、国際協調主義に基づいた連帯を進めます。東南アジア諸国の海洋警察力などのキャパシティビルディングを支援しつつ、ASEANとの安全保障協力・交流を促進します。

    •    気候変動に伴う大規模自然災害が現代の新たな安全保障課題であるとの認識に基づき、災害派遣での連携・協力を積極的に国際社会に呼びかけます。東日本大震災を含む多くの自然災害による被害を経験したわが国が、人道支援・災害救援の分野で積極的に国際貢献することで、国際的な信頼を築きます。

    •    宇宙・サイバー・電磁波・認知戦等の全領域を統合した作戦能力を強化します。従来の陸海空に加え、これらの各領域の能力を組み合わせなければわが国を守ることは困難になっていることを踏まえ、領域の安全、抗たん性の確保、領域を横断した作戦遂行能力の強化を進めていきます。

    •    SNSなどを活用した情報戦など非軍事と軍事行動が同時展開するハイブリッド戦に備え、フェイクニュースへの対応能力等を早急に高めます。また、宇宙・サイバー・AI・データなどの分野でのルール形成において主導的役割を果たしていきます。

    •    サイバー攻撃は平時から発生しており、常時パトロールを行う「積極的(能動的)サイバー防御」(アクティブサイバーディフェンス、ACD)が必要とされます。権限などを法的に明確化する必要があれば、国民の権利を最大限に保障しながら、電気通信事業法や不正アクセス禁止法等の改正を視野に入れつつ、サイバー安全保障基本法のような包括的な立法を早急に検討します。また、より強い権限をもった司令塔組織、例えばデジタル庁と統合したサイバー省(仮称)の創設も検討します。同様にインテリジェンスにおいても省庁の垣根を越えた連携を強化します。在外大使館で活動する防衛駐在官を拡充し、情報収集・分析能力を強化するとともに、体制の抜本的強化を行います。

    •    自衛隊の人的基盤の強化、AI等による無人化・省人化を推進します。自衛隊員の確保は最重要課題であるとの認識のもと、自衛官の給与体系、処遇・職務環境の在り方などの検討を加え、早急に必要な措置を講じます。また、度重なる不正事案や防衛省・自衛隊組織内のセクハラ・パワハラ被害などに鑑み、独立した防衛監察委員制度(オンブズマン)の導入も検討します。

    •    南西諸島の防衛力整備については、住民との十分な対話と丁寧な手続きを前提として、国民保護の徹底を図ります。国民保護法とその運用が、国民の生命及び財産を守るものとして真に機能するかどうか、今一度総点検するとともに、緊急一時避難施設の強化及び指定の拡大を図りつつ、住民の理解を得ながら既存の地下施設の少ない南西諸島を中心に、地下施設を整備します。

    •    台湾や朝鮮半島で有事が発生した場合の、在留邦人の退避や外国人及び避難民の保護に関する課題について検討し、事前の計画・訓練等を充実させます。

    •    原子力発電所をはじめとした、重要防護施設の防御の強化を進めます。わが国にある54基の原発等に対するサイバー攻撃やミサイル攻撃を含む重要防護施設の防御の在り方の検討を早急に行い、PAC3の配置の見直し、プール内の使用済核燃料の乾式キャスク化、稼働の最小化等、必要な措置を講じます。また、発電所、浄水場、通信施設などの重要インフラの防衛についても十分な備えがあるか点検します。

    •    国内防衛産業の維持のため国内調達の比率を増加させ、長期に安定した契約にするなど、調達の在り方や適正価格の在り方の検討、研究開発費の支援等を行います。研究開発についても、デュアルユース技術開発、ゲームチェンジャーにもなりえる最先端技術を推進し、防衛技術開発も省庁の垣根を越えて協力できる体制を構築します。

    •    防衛装備庁の調達業務等を厳しく監視し、FMS(米国対外有償軍事援助)調達の見直しを含め、国内の防衛装備品の技術基盤・産業基盤の強化を進め、バランスの取れた調達を戦略的に行っていきます。同時に、防衛産業の国際的な動向や現実を踏まえ、最新の防衛技術を獲得し、コストを抑えるため、防衛装備品の国際共同開発・生産を進めていきます。

    •    沖縄の民意を尊重して、軟弱地盤などの課題が明らかになった辺野古移設工事は中止し、沖縄の基地の在り方を見直して米国に再交渉を求めます。

    •    日米地位協定については、改定を目指しつつ、現状の基地問題の早期解決に向けて、米国側と交渉できる現実的な提案を行っていきます。基地周辺住民の健康と安全に直結する、①新型コロナウイルスのような感染症問題、②環境汚染問題、③騒音問題への対処に関する事項については、政治レベル案件に格上げし、「2+2」閣僚会合などの場で審議・決定します。

    •    沖縄でまたしても未成年者に対する性的暴行事件が起きました。「在日米軍に係る事件・事故発生時における通報手続」など日米合意が確実に実行されるよう見直しを行います。現行の刑事裁判手続に係る日米合同委員会合意の「凶悪な犯罪」を全て列挙し、起訴前拘禁の移転の要請に対して「好意的な考慮を払う」から「原則応じるものとする」に改定するための交渉を行います。

    •    米軍基地周辺ではPFAS/PFOS汚染が確認されているにも関わらず、多くの自治体の立入調査要請が管理権を持つ米軍に拒否されています。日本側による米軍基地の管理権、立入権限、横田空域(RAPCONを含む)の縮小、基地の米軍・自衛隊との共有化の交渉のための検討委員会を設置します。駐留軍等労働者の法的位置付けを明確にする法律を検討します。

    •    日米合同委員会を改組し、外務副大臣を日本側代表とし、30年経過した議事録は、日米合意の上、両国の公文書開示原則に則り、原則公開します。今後の日米合同委員会のより詳細な議事要旨について、開催後速やかに公開します。

    •    日米地位協定の改革に当たっては、独・伊の地位協定を参考にして、平時と有事に分けた協定適用の研究を進めると同時に、有事において日本の安全保障を確保する米軍活動に対して、日本側として可能な限り支援していくものとします。平時に、人口密集地や米軍基地周辺住民に対する、深刻な騒音被害や精神的苦痛、さらには物理的危険をもたらすような、深夜・早朝の離発着訓練、低空飛行、パラシュート降下訓練等の「有事を想定した訓練」を行う際には、航空法等の基準を踏まえ、日本政府との協議対象とします。

主権・領土

    •    尖閣諸島がわが国固有の領土であることは歴史的にも国際法上も疑いがなく、現にわが国はこれを有効に支配しています。同諸島を巡って解決すべき領有権の問題は存在せず、今後とも平穏かつ安定的に維持・管理していきます。力による現状変更の試みには毅然として対処します。

    •    尖閣諸島周辺では中国公船の活動が常態化し、海警局の領海侵入も繰り返されるだけでなく、船舶の大型化、武装増強も進んでいます。グレーゾーン事態に対しては、事態をエスカレートさせることなく、国際法、国内法に則り、冷静に、かつ、毅然として対応します。「領域警備・海上保安体制強化法」を制定し、海上保安庁が警察機関であることを踏まえ、海上保安庁、自衛隊がさまざまなグレーゾーン事態で担う役割分担や、有事を想定した場合の連携を充分に検討し、基本方針・対処要領を策定し、領海の警備や治安の維持に万全を期します。

    •    ロシアのウクライナ侵略に対しては毅然と対応する一方、わが国固有の領土である北方領土については、四島の帰属の問題を解決し平和条約を締結すべく、これまでの日ロ間の諸合意、法と正義の原則を基礎として、ロシアとの交渉を続けます。

    •    わが国固有の領土である竹島の問題は、国際法に従って平和的な解決を粘り強く求めていきます。

    •    「海洋国家」として排他的経済水域等の根拠となる離島の命名等のほか、国境離島、重要防衛施設、インフラ施設などの安定的な維持・管理のために必要な法整備等を検討していきます。

    •    一刻も早く、拉致被害者を取り戻す!拉致被害者やご家族ともに、事件発生から年月が経過し、拉致被害者との再会を果たせずにご家族がなくなるなど、一刻も猶予がありません。主権と人権の重大な侵害である北朝鮮による拉致問題について、早期に全ての拉致被害者が帰国できるよう、全力で取り組みます。

    •    拉致問題については、政府拉致対策本部・警察・外務省も含めたオールジャパンで取り組み、国連人権理事会等にさらに働きかけるなど、関係機関・関係各国と連携しつつ、北朝鮮との直接交渉に向けて日本政府自ら打開策を見出すよう最大限の努力をしていきます。

    •    国際的な企業活動等に従事する在外邦人・企業の安全を確保するための態勢を構築します。

    •    わが国周辺における偶発的な衝突などの不測の事態に備えて、在外邦人等の域外避難及び国内の国民保護のための計画を適切に策定します。また、他地域の危機的事態に対しても同様の計画策定を行います。

    •    日韓両国間では、1965年に締結した日韓請求権協定により、両締約国とその国民(法人を含む)の財産、権利および利益、両締約国とその国民の間の請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたこととなることが確認されています。韓国内で元朝鮮半島出身労働者(元徴用工)による訴訟が相次いでおり、わが国の企業へ賠償を求める等の動きがありますが、国際法を尊重した適切な対応を行うよう、日韓請求権協定に基づく協議を行い、わが国の企業の利益を守ります。

    •    慰安婦問題については、韓国に対し、最終合意を誠実に遵守することを厳しく求めます。



◆■◆■
 
国民民主党の安全保障政策2022
~我が国の自立的な安全保障体制の構築に向けて~
2022 年12 月7 日 国民民主党安全保障調査会

はじめに 
国民民主党の安全保障政策の骨子
 
〇自分の国は自分で守る 新たな感染症、気候変動による自然災害や食料危機、厳しさを
増す国際環境など、様々な危機を「想定外」とすることなく、経済、エネルギー、食料、
防衛等を含めた総合的な安全保障政策に万全を期し、我が国の領土、領海、国民の生命
及び財産を守り抜きます。具体的には「現実的平和主義」を基本理念に、「近くは現実
的に、遠くは抑制的に、人道支援は積極的に」を安全保障政策の原則とします。

○総合安全保障の推進 新型コロナウイルスの世界的な流行は、日本の脆弱性、例えばデ
ジタル化の遅れ、サプライチェーンの過度な他国依存、ワクチン開発能力の欠如などを
白日の下にさらしました。またエネルギー自給率は約10 %、食料自給率は約40 % (カ
ロリーベース)で、新たなパンデミックや大規模自然災害、地域紛争などのリスクに対
して、極めて心もとない現状であると認識すべきです。「自分の国は自分で守る」は、
何も防衛に限った課題ではありません。経済安全保障、総合安全保障の必要性を認識し、
政府一体となった戦略を策定し、日本の課題解決に取り組みます。

〇専守防衛の堅持 戦後日本が追求してきた「平和主義」と「専守防衛」といった重要な
安全保障政策はこれを堅持し、我が国を取り巻く諸情勢の変化を踏まえ、我が国の領土、
領海、国民の生命及び財産を守るという観点や、集団安全保障に基づいて国際的な責任
を果たすという視点からの新たな要請を不断に検討し、必要な対策をとっていきます。
非核三原則は堅持するとともに従来の政府解釈を踏襲します。

〇自衛のための打撃力(反撃力)の保持 ロシアによるウクライナ侵略により国際秩序が
根底から覆される危機にさらされる中、中国の急速な軍備拡大、頻繁な領海侵犯、北朝
鮮による我が国周辺への度重なるミサイル発射やロシアによる北方領土への新型ミサ
イル配備など、我が国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しています。このような厳
しい安全保障環境を踏まえつつ、「戦争を始めさせない抑止力」の強化と、「自衛のため
の打撃力(反撃力)」を保持します。

〇防衛力の強化 従来領域(陸、海、空)において不十分であった継戦能力の確保や抗堪
性の強化を抜本的に見直して整備する他、防衛技術の進歩、宇宙・サイバー・電磁波な
どの新たな領域に対処できるよう専守防衛に徹しつつ防衛力を強化するため、必要な
防衛費を増額します。

〇アクティブ・サイバー・ディフェンス(ACD)の採用 サイバー攻撃は新たな戦闘領
域であるとともに、国民生活や社会経済活動に深刻な影響を与えることから、できるだ
け速やかに対策を講じる必要があります。サイバー安全保障を確保するために、我が国
においても平時の段階からサイバー攻撃者の動向を探り、対処を行うアクティブ・サイ
バー・ディフェンス(ACD)について、能力整備と実施体制の整備を行うとともに、
「サイバー安全保障基本法(仮称)」を制定します。民間の能力を含めた国家のあらゆ
る機能を総合した「サイバー攻撃対処能力」の確立を目指します。

〇「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の見直し 我が国の安全保障を確保す
るため、日米同盟は引き続き重要であり、その中核となる日米防衛協力の実効性を確保
するため「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の見直しを行います。他方、
日米同盟関係を堅持・強化しつつも、米国に過度に依存し過ぎている日本の防衛体制を
見直し、「自分の国は自分で守る」ことを安全保障政策の基本に据え、必要な取り組み
を行ってまいります。また、日米地位協定の見直し、沖縄基地問題の解決を目指します。

〇イージスアショアの再検討とミサイル防衛の強化 我が国周辺諸国の核開発・保有状
況や、現在の弾道ミサイル防衛網を突破する可能性のあるミサイル開発状況などに鑑
み、ミサイル防衛体制を抜本的に見直し、あらゆる経空脅威に統合的に対応する統合防
空ミサイル防衛(IAMD;Integrated Air and Missile Defense)能力を強化してまいります。
この際、現在進めている「イージスシステム搭載艦」の有効性を検証するとともに、中
止が決定された「イージスアショア」の配備についても再検討します。また、各種のミ
サイル攻撃等から国民の命を守るため、地下シェルターの設置を促進するほか、国民保
護のための諸施策に取り組みます。

〇自衛官等の処遇、勤務環境の改善 我が国の防衛力の中核である自衛官の確保は精強
な自衛隊を維持するために必要不可欠です。自衛官の処遇、勤務環境の向上、留守家族
支援策の強化などに取り組むと同時に、退職自衛官の再就職支援の強化や若年定年退
職者給付金の拡充を図ります。また、女性自衛官が更に活躍することができるよう、勤
務環境の改善や子育て支援、育児後の職場復帰が円滑にできるような施策を講じます。

〇国内の防衛生産・技術基盤の強化 我が国の安全保障を支える防衛産業・技術基盤に対
する総合的な施策に取り組んでまいります。防衛装備品は自衛隊が防衛力を発揮して
国家・国民を守るために不可欠であり、「自分の国は自分で守る」という基本的考え方
に基づき、主要な防衛装備を自国生産できる製造基盤の強化や新規参入の促進、研究開
発体制の強化や防衛産業の維持・育成を目的とした一定の利益率の確保など防衛産業
の活性化に取り組むとともに、防衛産業が抱える様々なリスクを軽減・排除し、装備移
転の促進など販路の拡大に取り組みます。


目次
 
はじめに 国民民主党の安全保障政策の骨子 ...........................................................................

1 情勢認識(安全保障環境) ..................................................................................................
(1)全般事項..........................................................................................................................
(2)中華人民共和国 ...............................................................................................................
(3)朝鮮民主主義人民共和国 ................................................................................................
(4)ロシア連邦 .....................................................................................................................
2 安全保障政策の基本姿勢 .....................................................................................................
(1)自分の国は自分で守る ....................................................................................................
(2)専守防衛の堅持 ...............................................................................................................
(3)日米同盟の強化 ...............................................................................................................
(ア) 日米同盟が抱える諸課題の解決 ..............................................................................
(イ) 「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」見直し ........................................
3 防衛力の強化 .....................................................................................................................
(1)継戦能力及び作戦基盤の強化 .......................................................................................
(2)イージスアショアの再検討とミサイル防衛の強化 ......................................................
(3)自衛のための打撃力(反撃力)の保持 ........................................................................
(4)新領域を中心とした新たな技術への適切な対応 ..........................................................
(ア)アクティブ・サイバー・ディフェンス(ACD)の採用 ........................................
(イ)宇宙空間を活用した情報収集・通信・測位能力の強化 ...........................................
(ウ)電磁波攻撃への対応 ..................................................................................................
(5)インテリジェンス能力の強化 .......................................................................................
(6)総合的な抑止への取り組み...........................................................................................
4 防衛費 ..............................................................................................................................
5 防衛力を支える基盤 .........................................................................................................
(1)自衛官等の処遇、勤務環境の改善 ................................................................................
(2)防衛生産・技術基盤の強化...........................................................................................
(ア)先進技術への政府投資の拡大 ...................................................................................
(イ)国内防衛産業の維持及び育成 ...................................................................................
(ウ)防衛装備移転の促進 ..................................................................................................
6 国境離島等の保全 ............................................................................................................
7 国民保護 ..........................................................................................................................
8 在外邦人等の保護措置及び輸送 .......................................................................................
9 安全保障協力 ...................................................................................................................
10 北朝鮮問題 ...................................................................................................................
11 主権・領土 ...................................................................................................................
12 その他 ..........................................................................................................................
(1)人道支援・人権外交の積極的な推進 ............................................................................
(2)避難民受け入れ態勢の構築...........................................................................................
(3)気候変動対策の推進 .....................................................................................................

 
1 情勢認識(安全保障環境)
 
(1)全般事項

〇 ロシアによるウクライナ侵略、米中の戦略的競争の一層の激化などにより、既存の国
際秩序は根底から覆される危機にさらされています。

〇 最近の国際社会におけるパワーバランスの劇的な変化や、グローバル化の進展に伴
う国家間の相互依存関係の深化によって、国家安全保障が対象とする範囲は外交、軍事、
新領域(宇宙、サイバー、電磁波)のみならず、経済、先進技術、金融、地球環境問題、
人権問題といった分野にまで拡大しています。

〇 近年の戦いでは軍事と非軍事を組み合わせ、相手方に複雑な対応を強要する「ハイブ
リッド戦」が多用され、純然たる平時でも有事でもない、いわゆる「グレーゾーン事態」
が⾧期にわたり継続する傾向にあります。

〇 現代戦の戦闘様相は、人工知能(AI)を搭載したドローンが目標情報を収集し、低軌
道衛星などの新領域を活用したネットワークにより精密な射撃を行い、偽情報の流布
といった影響工作や偽旗作戦1も常態化するなど、戦いの様相が劇的に変化しています。

〇 ゲームチェンジャー技術と呼ばれる将来の軍事バランスを一変する可能性を秘めて
いる革新的技術は、戦闘様相を更に変化させる可能性を有しており、科学技術力は安全
保障にとって一層重要な「力」になっています。

〇 経済安全保障や気候変動への対応なども安全保障問題として重要視されています。

(2)中華人民共和国

〇 2022 年10 月12 日に公表された米国家安全保障戦略では中国について「自由で、開
かれ、繁栄し、安全な世界を追求する中で、私たちが直面する最も差し迫った戦略的課
題は、権威主義的な統治と修正主義的な外交政策を重ねる権力からのもの」とした上で、
「国際秩序を再形成する意図と能力の両方を備えた唯一の競争相手」と位置付けてい
ます。このような米中間の対立において、中国は台湾を核心的利益であると主張し、中
国の一部であるとの固い決意のもとに武力による統一も辞さない構えを示しています。

〇 習近平政権は尖閣諸島も中国の核心的利益であると明言しています。2018 年7月に
海警局(中国の海上保安機関)を軍事部門に編入し、さらに2021 年2 月には海警法2を

1 主に世論操作のために、敵になりすまして行動し、結果の責任を相手側や第三者に負わ
せることを目的とする軍事作戦の一種。
2 この法律では、中国が一方的に主張する「管轄海域」で外国の船舶を強制退去させるこ
とができ、主権や管轄権が侵害された場合には、武器の使用を含む一切の必要な措置を取
ることができる、とされている。国際法に反してでも力による現状変更を行うという中国
の姿勢が浮き彫りになっている。 

施行し、日本固有の領土である尖閣諸島の周辺海域への領海侵犯など、我が国周辺地域
において力を背景とした一方的な現状変更の試みを執拗に繰り返しており、更に拡大
するものと思われます。

〇 第一列島線の内側に他国の入域を拒否するとの目的を達成するため、中国は南シナ
海の内海化を進め、東シナ海での活動も強化しています。中国人民解放軍の航空機や艦
艇による太平洋進出も活発化しており、弾道・巡航ミサイルによる攻撃能力及びサイバ
ー・電子戦能力の急速な強化も相まって、東シナ海や南シナ海周辺における米軍の優位
性が失われつつあります。

〇 今世紀半ばまでに「世界一流の軍隊」の建設を目指す中国は、核兵器を含む戦力を大
幅に増強するとともに、既存のミサイル防衛網では迎撃困難な極超音速ミサイルの開
発を進めるなど、軍事力の質・量を急速に強化しています。また、軍民融合発展戦略に
よって獲得した先進技術により、人工知能(AI)などを活用した新しい戦い方の実現を
目指しています。

(3)朝鮮民主主義人民共和国

〇 北朝鮮は2017 年に「核武力の完成」を主張し、本年も巡航ミサイルやICBM 級弾道
ミサイル等の発射実験を執拗に繰り返しており、もはや「実験」とは言えず、「威嚇」
の段階を超えています。

〇 既に弾道ミサイルに核兵器を搭載して他国を攻撃する能力を保有しているとみられ
ており、我が国にとって重大かつ差し迫った脅威になっています。

〇 最近のミサイル発射では⾧射程化に加え、鉄道発射型や潜水艦発射型などプラット
ホームを多様化させるとともに、極超音速ミサイルや変則軌道で飛翔するミサイルも
開発しているものとみられ、ミサイル防衛網突破能力の獲得を目指しているものと考
えられます。

(4)ロシア連邦

〇 2022 年2 月24 日、ロシアは、「ドネツク人民共和国」及び「ルハンスク人民共和国」
の住民保護を目的として「特別軍事作戦」と称するウクライナへの侵略を開始しました。
これは国際秩序の根幹を揺るがす暴挙であり、国際社会と協調しつつ厳しい態度で対
応しなければなりません。

〇 侵略に際してプーチン大統領は「ロシア領への直接攻撃があれば核兵器の使用を辞
さない」と恫喝しました。核保有国に取り囲まれた我が国は、改めて核抑止について検
証し、拡大抑止の信頼性を向上させることが必要です。

〇 ロシア軍は、クリミア併合時にも見られたように、サイバー戦を含む軍事と非軍事、
平時と有事を意図的に曖昧にしたハイブリッド戦と、戦車や火砲などを伴う本格的な
武力攻撃を併用したものの、西側諸国の支援を得たウクライナ軍は、宇宙など新たな領
域を存分に活用した粘り強い反撃とドローンの投入などにより形勢を逆転させ、逐次
ロシアに占領された領土を奪還しています。

〇 そのような中、ロシアは北方領土に最新兵器を備えた部隊を展開し、カムチャツカ半
島東岸に核兵器を積んだ弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)を配備するなどしていま
す。我が国固有の領土である北方領土に多数の部隊を展開しているロシアの動向には、
平時から重大な関心をもって注視しなければなりません。

2 安全保障政策の基本姿勢

(1)自分の国は自分で守る

〇 「自分の国は自分で守る」ことを基本とし、防衛力を抜本的に強化するとともに、日
米同盟の実効性確保や価値観を共有する国々との連携強化を含め、抑止力・対処力を総
合的に高めていくことが必要です。

〇 ウクライナ戦争でも立証された通り、「自分の国は自分で守る」との考えを鮮明にす
るとともに実践することは、我が国自身の防衛努力の方向性を明確にするのみならず、
同盟国や友好国等からの信頼を獲得する上で極めて重要です。

〇 このため、防衛力のみならず、外交力、経済力、科学技術力などに加え、少子化への
対応、エネルギー・食料の安定供給など国力を強化して総合的な抑止力を高めるととも
に、我が国を取り巻く厳しい安全保障環境に対し我が国の諸力を結集した総合力をも
って対処する体制や制度を確立します。

〇 防衛予算の増額や基地・設備の増設などを伴う防衛力の強化は、国民の理解無しには
成し得ないため、その必要性や基地周辺の安全確保などについては丁寧な説明、コミュ
ニケーションが欠かせません。適切な広報活動も用いながら、有事の際の避難の指針の
周知を進めるとともに、政治の責任として我が国の防衛政策に対する国民の理解増進
に真摯に取り組みます。

(2)専守防衛の堅持

〇 我が国は戦後一貫して平和国家としての道を歩み、専守防衛に徹し、他国に脅威を与
えるような軍事大国とはならず、非核三原則を守るとの基本方針を堅持してきました。
専守防衛は引き続き堅持するものの、その趣旨が不鮮明になってきていることから、
「我が国に対する侵略から自国を守り、自らは他国を侵略しない。」ことを、専守防衛
の新たな定義とし、他国から攻撃されているときは当然ながら、他国からの攻撃が切迫
しているときにおいても、我が国の領土、領海、国民の生命及び財産を守るため他に適
当な手段がない場合は、必要最小限度の実力行使によって我が国における被害を未然
に防ぐことは専守防衛の範疇内であるとの従来からの政府解釈を踏襲し、明確化しま
す。

〇 周辺諸国が核兵器を保有し、その投射手段であるミサイル開発を継続している状況
を踏まえると、拡大抑止の実効性確保について具体的に議論していく必要があります。
このため、現在行われている「日米拡大抑止協議(EDD;Extended Deterrence Dialogue)」
を局⾧級以上に格上げするとともに、成果について国民に説明するよう求めてまいり
ます。

(3)日米同盟の強化

(ア) 日米同盟が抱える諸課題の解決

〇 平和安全法制は内容にも手続きにも問題がありました。しかし成立後、日米防衛協
力のための指針(ガイドライン)の見直しが行われ、それに基づいた体制整備が両国
で行われている以上、日米間での緊密な対話を通じて、現実的なアプローチで必要な
見直しに取り組みます。具体的には、「遠くは抑制的に」の原則に基づき、半ば自動
的に米国の活動に関与することになる「国際平和支援法」や、「周辺事態法」から地
理的制約がなくなった「重要影響事態安全確保法」の見直しを行い、日本にとって関
与すべき事熊かどうかの判断を、主体的に行います。

〇 激変する安全保障環境に、日米安保体制をさらに安定的に強固なものにしていく
ことは、日本の安全のみならず、アジア太平洋地域の平和と安定にとって不可欠です。
日本の外交・安全保障の基軸である日米同盟を堅持・強化します。そして、日米両国
の信頼関係に基づき、平和安全法制の見直しや地位協定の見直しに加えて、非対称的
な双務性を定めた日米安全保障条約の将来像についても日米間で議論を行います。

〇 日米地位協定は「現代の治外法権」ともいえる不平等協定と指摘されています。日
本政府は全ての基地管理権を米軍へ委譲しており、日本の国土、領空、領海の管理に
空白地帯を生じさせています。事件事故が発生した場合にも日本の公権力が及ばな
い状態が放置され、各種訓練の事前通知なども不十分なままとなっています。日米地
位協定の実施に関する協議機関である日米合同委員会に関しては、議論の内容が公
開されない状況が未だに続いている他、日本側代表が外務省北米局⾧である一方、米
側代表が軍人となっているなどそのメンバー構成が非対称的なものになっていて問
題です。以上の問題意識に基づき、米軍、軍人、軍属、その家族に対する国内法の原
則順守、日本による米軍基地の管理権、日米合同委員会の在り方などについて、米国
と協議します。また、利便性の向上にもつながる横田、岩国空域及び管制権の返還を
求めます。

〇 在日米軍再編に関する日米合意を着実に実施し、抑止力の維持を図りつつ、日米地
位協定の改定を提起し、沖縄をはじめとする関係住民の負担軽減に全力を挙げます。
約9 千人の海兵隊員を国外移転し、嘉手納以南の土地返還を実現させます。

〇 在日米軍の配備態勢は、日米同盟の実効性を担保しつつ、時代や技術の変化ととも
に不断に見直すべきです。また、「同盟強靭化予算」を公的な通称とする在日米軍駐留経費の日本側負担、いわゆる「思いやり予算」に関しても、日本が自律的な防衛力
を強化しその役割を拡大させるのに応じて、その在り方について改めて日米間で検
討を行うべきです。そして、軟弱地盤の問題もあり、期間や費用も大きく膨れ上がる
辺野古の埋め立ては一旦停止し、沖縄の民意を尊重し、日米間で合意できる「プラン
B」の話し合いを行います。

(イ) 「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」見直し

〇 米中間の戦略的競争の激化を含む安全保障環境の変化を受けて、ますます日米同
盟の重要性、位置付けが高まっており、その結果、防衛協力の分野も拡大しています。
我が国の安全保障上の観点のみならず、自由・民主主義・法の支配といった既存の国
際秩序を維持・発展させるため、さらには中国がその影響力行使を強めているインド
太平洋における法の支配に基づく自由で開かれた環境を構築するために日米同盟を
有効に機能させることが今まで以上に重要になっており、防衛協力の実効性を高め
る必要があります。

〇 同盟の戦略的合理性を追求するためには両国の地理的位置という特性に基づいた
役割分担が重要です。特に事態生起の初動は日本が主体的に防衛作戦を行わなけれ
ばなりません。このような態勢をとることにより米国はインド太平洋の他の地域の
プレゼンスを増すことができ、地域全体の安定性を増すことに繋がります。一方、我
が国の防衛のために米軍が来援する時は、これをスムーズに受け入れることが不可
欠であり、港湾、飛行場、自衛隊施設、艦艇・航空機の造修能力を含めた民間施設の
利用環境を制度面も含めて整備しなければなりません。

〇 中国の接近阻止・地域拒否(A2/AD;Anti-Access/Area Denial)能力の拡大、人民解
放軍の近代化、弾道ミサイル等の開発・配備、サイバー・電子戦能力の強化などによ
り、米軍の東アジアにおける前方展開戦力及び戦力投射能力の優位性は相対的に低
下しつつあります。このような戦略環境において我が国の防衛とインド太平洋にお
ける安定確保のためには、米軍の前方展開を確保するとともに、日米同盟において我
が国がより主体性を発揮することが重要になります。また、米海兵隊による機動展開
前進基地作戦(EABO:expeditionary Advanced Base Operations)、米海・空軍による攻
撃部隊の展開支援及び米陸軍が遂行するマルチドメイン作戦(MDO:Multi-Domain
Operations)を支援(防衛協力)できる態勢を確保することは日米同盟を強化すると
ともに抑止力を高めるために重要です。

〇 このような我が国を取り巻く厳しい安全保障環境の変化や、防衛力の強化に伴う
我が国防衛における主体性発揮などを踏まえ、「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」
を見直し、日米防衛協力の在り方を実効的なものとするために不断の取り組みを行
ってまいります。

3 防衛力の強化

(1)継戦能力及び作戦基盤の強化

〇 我が国周辺の厳しい安全保障環境に対処すべく、従来の陸海空各領域における防衛
力は引き続き強化します。この際、機動・展開能力の強化、継戦能力(持続性、抗堪性)
の強化、作戦基盤(指揮通信施設、空港・港湾・鉄道、基地機能、病院等)の強化とい
った、従来の領域に残された課題を抜本的に解決するための各種施策に取り組みます。

〇 特に継戦能力は著しく不足しており、弾薬や燃料など自衛隊の行動に不可欠な物資
の備蓄のための施設の構築及び弾薬・燃料の確保、離島間の輸送能力の確保などに取り
組みます。なかでも弾薬は民生品としての需要がほとんどなく、その需要のほとんどが
防衛省となっているほか、武器等製造法や火薬類取締法などの適用を受けるとともに
保安用地の確保なども必要なことから、これらの能力を有する限られた企業が生産を
行っています。弾薬の不足は防衛力を行使する上で致命的であることから、所要の量産
体制を維持しなければなりません。このため、弾薬製造企業が量産体制を維持し、適正
な利益を継続的に確保できるよう、各種の支援施策に取り組んでまいります。

〇 また、司令部など重要施設の地下化や航空機用掩体の構築を進めるとともに、滑走路
などの被害復旧能力を高めます。特に南西諸島防衛に必要な弾薬庫の確保は死活的に
重要であり、既存の施設の強化や新たな施設の造成に取り組みます。

(2)イージスアショアの再検討とミサイル防衛の強化

〇 中国、北朝鮮は米露のINF 条約(中距離核戦力全廃条約)の間隙をついてミサイル開
発を継続し、我が国を射程下に収めた多数の中・⾧距離ミサイルを実戦配備しています。
特に既に中露が運用を始めているとみられる極超音速滑空体(HGV;Hypersonic Glide
Vehicle)などは現有の弾道ミサイル防衛態勢(BMD)では迎撃することが困難である
ばかりか、近い将来にはさらに高度な、極超音速巡航ミサイル(HCM;Hypersonic
Cruising Missile)の実用化が予想されています。このため弾道ミサイルのみならず極超
音速滑空弾や変則軌道で飛翔するミサイル、更には無人攻撃機など、あらゆる経空脅威
に統合的に対応する統合防空ミサイル防衛(IAMD;Integrated Air and Missile Defense)
能力を強化してまいります。

〇 我が国のミサイル防衛の在り方に関しては、イージスアショアの導入や、イージスシ
ステム搭載艦の整備が決定された時点では顕在化していなかった変則軌道型や極超音
速新技術を使用した脅威(HGV など)、また、北朝鮮によるミサイル開発の激化ととも
に、中国の軍事的脅威の増大に対してもいかに対処していくかという観点で再検討す
べきであり、イージスシステム搭載艦ありきではなく、今一度イージスアショア導入を
排除せず、総合的に再検討してまいります。

(3)自衛のための打撃力(反撃力)の保持

〇 我が国はこれまでも専守防衛に基づく防衛政策の下、自衛隊は反撃のための能力を
現時点では保持していませんが、他に適当な手段のない場合においては、座して死を待
つのではなく、一定の制限の下で攻撃的行動を行うことは、法理論上は認められている
と解釈してきました。

〇 米国はロシアとの間のINF 条約により同条約が規制していた射程500~5,500km の地
上発射型ミサイルを全て廃棄しましたが、同条約の枠組みの外にあった中国は、中距離
ミサイルを約1,900 発、巡航ミサイルを約300 発保有するなど、米中間のミサイル数の
ギャップが存在します。更に中国のA2AD 能力の向上に伴う戦力発揮の制約等から、
我が国が米国に全面的に依存してきた打撃力を十分に期待できる状況ではありません。

〇 これまで我が国はイージスシステム及びPAC-3 を主体とした弾道ミサイル防衛態勢
を整備してきましたが、周辺諸国は極超音速で飛翔するミサイルなど現行のシステム
では対処できない各種のミサイルを開発・配備しています。このような脅威から我が国
の平和と安全を守るため、我が国独自の打撃力(反撃力)を保持することとし、それが
可能となるよう各自衛隊が保有するミサイル等の⾧射程化や、情報収集機能や指揮通
信機能の整備・強化に取り組んでまいります。

(4)新領域を中心とした新たな技術への適切な対応

〇 サイバー、宇宙、電磁波等の新たな領域は、日常的な社会活動・経済活動の依存度が
高まっており、これらの領域における脅威やリスクが、国家安全保障に直接影響を及ぼ
すようになってきています。これらの領域における秩序の構築や維持に能動的に取り
組むとともに、軍事的な競争領域になっていることを踏まえ、新たな技術に適切に対応
し、国家全体としての対応並びに官民一体となった対応を積極的に進める必要があり
ます。

(ア)アクティブ・サイバー・ディフェンス(ACD)の採用

〇 政府のサイバー安全保障を総括する司令塔機能を創設するなど、サイバー安全保
障体制を抜本的に強化します。人材の育成及び質量両面での大幅な拡充により、サイ
バー防衛隊の体制を抜本的に拡充するほか、米国やNATO との連携、民間企業との
協力などを進めます。

〇 最近サイバー領域では、①知的財産やビジネス秘密の窃取を目的としたサイバー
攻撃、②重要インフラの機能麻痺を生じさせるサイバー攻撃、③サイバー空間を用い
たディスインフォメーションによる影響力工作、④病院や地方自治体などの市民生
活を脅かすランサムウェア攻撃など、我が国の安全保障と国民の生活を脅かすサイ
バー攻撃が増加しています。これらのサイバー攻撃については、外国国家の関与が疑
われているものも増えてきています。

〇 サイバー攻撃への対応について、2014 年に成立したサイバーセキュリティ基本法
では、サイバーセキュリティの確保は各々の事業者や国民の努力とされていますが、
国家が関与する烈度の高いサイバー攻撃については、民間の努力による受動的サイ
バー防御(パッシブ・サイバー・ディフェンス)では、もはや対応に限界があります。
また、現状の我が国のサイバーセキュリティの体制では、国の果たす役割は限定的で
す。例えば、内閣官房のサイバーセキュリティセンター(NISC)の役割は、総合施策
の策定、行政システムセキュリティーの監視、サイバーセキュリティの情報共有や助
言と限定的です。

〇 武力攻撃事態においては自衛権をもって自衛隊が対処するというのが政府の安全
保障上の立場ですが、自衛隊の現在のサイバー防衛は主として自衛隊のネットワー
クの防護を想定したものであり、国家全体のサイバー空間の安全を担うものとはな
っていません。平時においては、自衛隊のアセット以外のシステム防護は任務の対象
外であり、重要インフラなどのサイバー対処は事業者や民間企業に委ねられていま
す。サイバー空間の安全を確保していくために、平時から国が万全の措置を講ずる責
務を負うことが急務です。

〇 また、ウクライナ戦争では、「ハイブリッド戦」と言われるように、情報戦やサイ
バー攻撃など非軍事的手段を用いた攻撃が、平時からグレーゾーン事態にかけてサ
イバー空間で行われました。このような「ハイブリッド戦」は、我が国や我が国周辺
での有事の際にも想定され、平時の武力攻撃事態に至らない、いわゆるグレーゾーン
事態の段階からサイバー空間でのシームレスな安全保障上の対処が必要となります。

〇 実空間の武力攻撃と異なり、安全保障上の脅威となるサイバー攻撃では、サイバー
攻撃の実行者は誰か、攻撃目的は何か、といったことが見極めにくく、サイバー攻撃
が発生してからの対応では時間的に間に合いません。そのため、平時における段階か
ら国家レベルのサイバー防衛を行うことが必要です。

〇 欧米各国においては、このようなサイバー安全保障の特性に鑑み、平時の段階から
サイバー攻撃者の動向を探り、対処を行うアクティブ・サイバー・ディフェンス(A
CD)が採用されています。ACDは、「①サイバー攻撃の監視(モニタリング)」、
「②攻撃者の特定(アトリビューション)」、「③攻撃への対抗措置」を一連のサイバ
ー防御として行うことであり、サイバー安全保障を確保するために、我が国において
も、ACDの能力整備と実施体制の整備を行うべきです。

〇 ACDによるサイバー攻撃の監視・特定・対抗措置を行うためには、現状では、様々
な国内法的な制約があり、不正アクセス禁止法などの法律の改正が必要です。また、
通信事業者やプロバイダーなどの民間事業者との協力も不可欠であり、そのための
法律の整備も必要となります。

〇 サイバー攻撃の監視・特定・対抗措置を行うためには、国外でのサイバー活動が必
要ですが、このような行為は国際法上の議論でも認められています。サイバー空間への国際法の適用を検討した「タリンマニュアル2.0」では、「国家は、その国際関
係において、自国を拘束する国際法の規則に従う限り、サイバー活動を行う自由を有
する(規則3)」と規定されています。

〇 サイバー攻撃の監視等に伴う措置には、通信の秘密等の国民の権利との衝突に対
する懸念がありますが、諸外国では、①外国及び外国人に保障される権利ではない、
②国家安全保障という「公共の福祉」のために制限される、という考え方が一般的で
す。わが国でも「公共の福祉」には国家安全保障も含まれるということを明確にする
とともに、サイバー空間への国際法の適用をまとめた「タリンマニュアル2.0」な
どを参考にしながら、我が国が行うACD に必要な各種の活動を可能にするための制
度を確立するとともに、体制を整備する必要があります。

〇 このため、国としての方針や国の役割・権限・責任の所在などの基本事項を一括し
て定める「サイバー安全保障基本法(仮称)」の制定、自衛隊のACD能力の強化、
ACDへの民間企業の協力を可能とする体制の整備などについて取り組んでまいり
ます。

〇 「サイバー安全保障基本法(仮称)」は災害対策基本法などと同様に、サイバー空
間の安全保障に関する国の責務と措置(サイバー攻撃の監視、攻撃者の特定、攻撃へ
の対処、被害からの復旧など)を明示するものです。この際、日本国憲法の保障する
国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限が加えられる場合にあっ
ても、その制限は必要最小限のものに限られ、かつ、公正かつ適正な手続きの下に行
わなければなりません。

〇 「サイバー安全保障基本法(仮称)」に基づく「国が行う措置」の持効性を確保す
るため、民間の能力を含めた国家のあらゆる機能を総合した「サイバー攻撃対処能力」
の確立を目指します。

(イ)宇宙空間を活用した情報収集・通信・測位能力の強化

〇 宇宙状況監視や宇宙空間を活用した情報収集・通信・測位などの能力向上により、
宇宙利用の優位を確保します。特に小型衛星群(衛星コンステレーション)を弾道ミ
サイルの早期警戒や広域にわたる排他的経済水域の監視に応用します。また、宇宙・
サイバー・電磁波領域を融合した統合部隊を創設します。

〇 宇宙システムは人工衛星とその運用に必要な地上設備及びそれらをつなぐ通信リ
ンク、打ち上げ施設やこれらの機能維持に必要なシステムから構成されており、どの
一部の途絶もシステム全体の機能不全につながることから、これらの機能保証を強
化するための施策を推進します。

(ウ)電磁波攻撃への対応

〇 全ての領域に大きな影響を与える電磁波攻撃は、強力かつ執拗に行われることが
予期されることから、これを回避、あるいは被害を局限(最小化)するための対策を
講じなければなりません。特に、我が国の周辺諸国は既に大規模な電磁パルス(EMP)
攻撃を行う能力を保有しており、国民生活や社会経済活動に深刻な被害を与える恐
れがあります。

〇 各種の電磁波攻撃にさらされる危険性の高い重要インフラ、自衛隊の施設や部隊
の対電磁波攻撃能力を確保するための研究と具体的な処置・対策を行います。また、
人工衛星に対する電磁波妨害状況の把握や宇宙領域との連携による相手方の指揮統
制・情報通信を妨げる能力の構築により、電子戦能力と電磁波管理能力を向上させま
す。

(5)インテリジェンス能力の強化

〇 情報収集・警戒監視・偵察能力(ISR 能力:Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)
を強化することは、抑止力強化のために重要であり、必要な装備の調達などを通じて能
力強化を進めます。また、情報セキュリティの質量ともにレベルアップを図るとともに、
情報の収集・分析・評価及び情報セキュリティに関わる人材・技術のさらなる育成が必
要不可欠です。政策判断を的確に行うために、各省庁が有する情報を集約し、分析する
組織も必要です。イギリスの合同情報委員会(JIC;Joint Intelligence Committee)などを
参考にしつつ、日本のインテリジェンス能力を高めます。

〇 情報は物事の理解や行動の判断材料としての補助的領域から作戦・戦闘領域へと役
割を拡大しており、これまでの情報活動の強化に加え、影響工作や認知戦など「情報戦」
の能力を向上させなければなりません。特にハイブリッド戦では平時有事を問わず国
民生活の場から自衛隊等が行う活動の最前線まであらゆる領域に対して情報戦が行わ
れることから、国家全体としての対応要領を確立します。

〇 特に影響力工作はウクライナ戦争でもロシアがこれを駆使したことが注目されまし
た。影響力工作は国家の指導者や一般国民の心理・認知・決定に影響を及ぼすことで政
治体制や政権を混乱させたり、望ましい方向に誘導する活動、および自国に対する同様
の活動から防護することを目的としたものです。

〇 中国は台湾に対し「ディスインフォメーション(社会、公益への攻撃を目的とした害
意のある情報)」の拡散や、政治や軍関係の要人に対する働きかけなど、「影響力工作」
を幅広く行っているとされ、台湾の安全保障にとって大きな脅威となっています。この
ような政治的「影響力工作」に加え、人民解放軍もサイバーと電磁波、そして心理戦を
一体的に情報戦としてとらえており、2015 年に軍改革の一環として創設された「戦略
支援部隊」は、これらの機能を統合し、情報戦、宇宙戦、サイバー戦、電磁波戦を担っ
ているとみられています。

〇 このような影響力工作に対抗するため、情報収集センターの設置などを含む各種の
施策に取り組んでまいります。また、国家安全保障の目的を達成するために政府として
の考えを集約するとともに一貫した方針を確立し、各種手段を通じてメッセージを発
信する戦略的コミュニケーション(Strategic Communication、以下「SC」)は極めて重要
であり、効果的なSC を行うため、SC に関する「国家の司令塔」を定め、SC の権限と
役割を明確にし、政府として同期のとれたメッセージを戦略的に発信します。

(6)総合的な抑止への取り組み

〇 米国は国際秩序を脅かす国に対し、陸海空やサイバー、宇宙といった領域における軍
事面での活動に加え、外交的な圧力や経済制裁、情報作戦など米国の総力を投入すると
ともに、同盟国や友好国などと一丸となって侵略などの企図を押さえ込む「統合抑止
(Integrated Deterrence)」に取り組んでいます。

〇 このように、直接脅威が及ぶことを防止し、脅威が及ぶ場合にはこれを排除するとい
う武力攻撃事態だけを念頭に置いた伝統的な抑止構想では対応しきれなくなってきて
います。このため、従来の防衛力のほか外交や経済、宇宙・サイバー、情報戦など、国
家の力を結集した総合的な抑止について取り組んでまいります。

4 防衛費

〇 近年、我が国を取り巻く安全保障環境は一層厳しくなっている状況にある中、2012 年
度以降、漸次防衛費は増額されてきたものの、そのGDP 比はおおむね1%以内に推移
しており、ほとんど現状維持を保っています。その間、周辺諸国は軍事費を増加させ、
2021 年度の中国の国防費は我が国の防衛費の6.5 倍にもなっています。

〇 宇宙、サイバー等の新領域に対応するために必要な防衛力の強化に加え、従来の領域
においても尖閣諸島を含む南西諸島の防衛については更なる防衛態勢の強化が必要と
なっています。また、本来充当すべき継戦能力(弾薬、誘導弾等の備蓄)、防衛施設の
抗堪性の強化や隊舎・庁舎の建て替えなど後方面での充実が滞っている状況にあり、速
やかに改善してまいります。

〇 国内防衛産業からの調達額が減勢傾向にあり、防衛部門から撤退する企業も出始め
ており、国内の防衛産業が衰退しかねず、防衛装備品の開発、維持、整備等に深刻な影
響が出るおそれがあります。

〇 ウクライナ戦争という事態を受け、NATO は改めて加盟国の国防費についてGDP2%
以上を堅持し、軍事力を強化することを決めました。

〇 このような観点から、防衛費を速やかに増額し、我が国の安全保障を確実にするため
の防衛力を強化します。このような防衛費の増額は、国家としての防衛意志を周辺国に
対して明示することにもつながります。

〇 今後数年以内に有事が起こる事態も想定し、従来領域(陸、海、空)の充実・強化、
特に継戦能力の向上、基地等の抗堪化、装備品不可動の解消など「直ちに取り組める防
衛力の強化」と、宇宙・サイバー・電磁波などの新領域における防衛力の強化など「中
⾧期的な取り組み」を切り分けて、効率的・効果的に防衛力を強化します。

〇 防衛費の増額に当たっては、単にNATO 基準(GDP 比2 %)に求めるのではなく、
真に実効的な防衛力を整備するために必要かつ効率的な事業の積み上げの結果として
必要な額とし、日本の国力国情に即したものにします。財政事情を踏まえ防衛費を一気
に増額することや、目標の曖昧な増額は現実的ではなく、当面の整備目標や優先順位を
定めた上で10 年程度の期限を切って漸次増額します。

5 防衛力を支える基盤

(1)自衛官等の処遇、勤務環境の改善

〇 我が国の平和と安全を守るため、日夜訓練に励み、厳しい任務を遂行する自衛隊の中
核は自衛官です。自衛官の確保は精強な自衛隊を維持するために必要不可欠であり、自
衛官が誇りを持って任務に邁進することができるように、自衛官の処遇、勤務環境の向
上、留守家族支援策の強化などに取り組みます。

〇 退職した自衛官が引き続き安定した生活を送ることができるように、再就職支援の
強化や若年定年退職者給付金の拡充を図ります。

〇 女性自衛官が更に活躍することができるよう、勤務環境の改善や子育て支援、育児後
の職場復帰が円滑にできるような施策を講じます。

(2)防衛生産・技術基盤の強化

〇 日本はアメリカに、核を含めた抑止力はもちろんのこと、ミサイルなどで攻撃された
場合に敵基地などを攻撃する打撃力、加えて情報収集・分析能力、そして主要装備まで
も大きく依存しています。

〇 日本がアメリカから装備を購入する際の仕組みである、「対外有償軍事援助(FMS)」
は「価格がブラックボックスである」「価格が見積もりのため後から上昇することがあ
る」「納期も見積もりのため計画通りに納品されないことがある」「納入品に不具合があ
っても一定期間内に報告しないと却下される」「納入後の前払い金の未精算額も少なく
ない」「国内防衛産業の基盤整備に役立っていない」「修理が我が国でできず運用に支障
をきたすことがある」など、幾つもの問題を抱えています。

○「自分の国は自分で守る」という基本的な考え方に基づき、防衛装備は極力国内で調達
するべきです。そのため、日本が主体的に取り組む分野を決め、防衛装備の防衛生産・
技術基盤を強化する取り組みを行います。

(ア)先進技術への政府投資の拡大

〇 情報通信技術、AI、量子コンピューター、無人技術などの先進技術は、これからの
国際社会の経済活動や社会生活の発展を支える中核的技術であるのみならず、軍事
力の向上や宇宙・サイバー・電磁波など新たな領域においても大きな影響を与えるな
ど、国家安全保障上極めて重要なものとなっています。先進技術の優位性の獲得は、
軍事力の発展のみならず、生産力の向上や社会生活の改善を通じて、経済力の発展・
向上など国力の向上にも大きく寄与します。一方、安全保障の範囲の拡大に伴い、安
全保障面での圧倒的な優位性を生み出すゲームチェンジャー(将来の軍事バランス
を一変する可能性を秘めている革新的技術)の大半はデュアル・ユース技術(民生用
にも軍事用にもどちらにも使うことができる技術)として軍民の区別がつかなくな
ってきました。

〇 戦略的に安全保障上重要な分野で技術的優位性を確保するためには、防衛技術に
適用できる優れた民生先進技術(潜在的シーズ)を適切に取り込んでいかなければな
りません。このためデュアル・ユース技術活用の促進や、企業等における先進的な防
衛装備品を目指した研究(芽出し研究)に対する適切な配慮や支援を行います。

〇 現代のようなハイテク覇権競争時代において、全ての技術分野において日本が米
中と対等であることを直線的に追求することは困難ですが、「戦略的不可欠性の確保」
を戦略的コンセプトとして、日本が優位性を持てる技術力を研究開発し、育成・維持
していくことが重要であり、所要の措置を講じます。

〇 現在の防衛大綱において「今後の我が国の防衛に必要な能力に関する研究開発ビ
ジョンの策定等による予見可能性の向上により、企業の先行投資の促進を図るとと
もに、その力を最大限に引き出す」こととされている通り、民間企業が我が国の防衛
にとって不可欠な防衛装備の研究開発に参入し易い環境を醸成します。

〇 このため、防衛装備品の研究開発に係る経費を大幅に増額するほか、防衛装備品に
係る研究開発や科学技術に関する基本方針を明確にした上で、中⾧期的な研究開発
戦略を策定して企業の予見可能性を向上させるとともに、先行投資による開発経費
や技術的困難性などの各種リスクの負担軽減策について検討してまいります。

(イ)国内防衛産業の維持及び育成

〇 防衛生産・技術基盤は我が国の防衛力を支える重要かつ不可欠な要素であり戦力
そのものであるものの、その大部分を民間企業である防衛産業に依存しており、開
発・製造に特殊かつ高度な技術力を保有した中小企業を中心とした関連企業に支え
られています。

〇 一方で防衛装備品の高度技術化などにより、調達単価及び維持・整備経費の増加な
どに伴い調達数量は減少し、採算性を重視する防衛産業の経営構造の転換等の影響
などによって対応が困難となった一部企業は防衛事業から撤退しつつある状況です。

〇 現在の防衛産業等の事業規模は各企業とも全社比率で1割未満となっており、投
資家からも事業撤退を示唆される状況となっています。FMS 調達の増大に伴う国内
産業の比率減少なども加わり、量産を通じた⾧期的・安定的なビジネスモデルが成り
立たなくなっています。

〇 経団連が防衛省に対して「政府の一体的取組と緊密な官民連携の実践なしには、新
大綱が目指す防衛力の強化は達成できない」と要望(2019 年)しているように、政
府が主導して防衛産業・技術基盤の強化策を推進し、官民の連携を強化することが喫
緊の課題です。

〇 このため契約・調達制度の改善、セキュリティ・クリアランス制度の創設による先
端技術の積極的活用、サプライチェーンの維持・強化、知財の管理などにより、官民
の連携を強化してまいります。また、防衛装備の代金支払いに関して、納入時一括で
はなく、着手時も含めて複数回に分けての支払いで企業のキャッシュフローに配慮
するなど、企業が防衛産業に参入し易い制度の導入などにも取り組んでまいります。

〇 米国防総省は約700 億ドルを研究開発に投入しており、このうち米国防総省が管
轄する国防高等研究計画局(DARPA)の予算は約28 億ドルとなっています。DARPA
は各軍が管轄しない先進的・分野横断的な科学技術の研究開発を担っている他、
DARPA の支援を受けた案件の事業化に向けてベンチャーキャピタル(VC)が積極的
に投資するなどして新産業創出を後押ししています。

〇 このように、企業が新しい技術開発にチャレンジできる制度を創設し、防衛事業を
有しないスタートアップなどの企業や研究機関等が、防衛産業と連携し、あるいは単
独で、装備品を開発する取り組みが我が国においても求められています。防衛産業の
有する防衛生産・技術基盤を安全保障上の重要な国力と捉え、これらの施策を政府に
働きかけ、防衛産業の育成を後押します。

(ウ)防衛装備移転の促進

〇 現在の国家安全保障戦略に基づいて2014 年4 月に「防衛装備移転三原則」が閣議
決定されましたが、現段階でもこれらを目標とした一貫した明確な国家戦略は存在
せず、大きな成果を得ているとは言い難い状況で、今後、防衛装備・技術協力を戦略
的に拡大してまいります。

〇 特に、防衛装備移転三原則に基づいて国家安全保障会議において決定された「防衛
装備移転三原則の運用指針(以下「運用指針」)」では「防衛装備の海外移転を認め得
る案件」が規定されていますが、認め得る案件は国際共同開発・生産に関する海外移
転を除けば、基本的に5分野(救難、輸送、警戒、監視及び掃海)に限定されている
ため、この「運用指針」を本来の趣旨に反しない範囲で改正し、移転の対象となる防
衛装備を拡大します。

〇 防衛装備・技術移転や協力を通じて、政治・外交的影響力を高め、安全保障・防衛
協力を強化し有為な環境を醸成するためにも「防衛装備・技術協力戦略」が喫緊の課
題であり、この同戦略の策定に取り組んでまいります。

〇 また、防衛装備・技術協力戦略に基づいて明確な目標と優先順位を定め、調達国と
の協議・交渉、輸出許可手続きなどに必要な体制の整備、移転に関連するセキュリテ
ィ・クリアランス制度の整備、関係企業が一体となった環境・体制づくりなどに取り
組んでまいります。

6 国境離島等の保全

〇 四面を海に囲まれた我が国の領域は、⾧大な海岸線と離島が有する領海によって形
成され、領海及び排他的経済水域(EEZ)等の外縁を根拠付ける国境離島の保全は極め
て重要です。一方、自衛隊や海上保安庁の配備が十分でない国境離島などの場合、領域
を保全する機能(領域警備を含む)は脆弱であり、改めて国境離島の領域保全について
総合的な施策を推進してまいります。

〇 特に有事や災害時における通信手段の確保は極めて重要であり、海底ケーブルの強
化や通信衛星を介しての通信手段の確保など、通信基盤の整備について具体化を求め
てまいります。この際、高高度無人機に搭載した通信局など新たな技術によるLTE(モ
バイルデバイス用の通信回線規格の一つ)や5G(第5 世代移動通信システム)環境の
安定的な供給など、離島に適した通信手段の確保を目指します。

〇 また、与那国島や石垣島などの離島については、国民保護のために必要な輸送手段が
限られており、港湾や空港などの施設について基盤の整備と管理・運営体制の維持が不
可欠です。特に当該地域における滑走路や駐機場など、迅速な避難を行うための態勢は
極めて脆弱であり、早急な見直しと基盤整備を求めてまいります。この際、現に3,000m
級の滑走路を有する下地島空港の積極的な活用は、迅速・円滑な避難のために不可欠で
あり、具体的な施策を推進します。また、地下シェルターなど、一時的な島内避難・保
護の態勢についても整備します。

7 国民保護

〇 我が国における武力攻撃事態はいうまでもなく、台湾有事や朝鮮半島有事などに際
して、国民を保護し、安全を確保することは国家の責務です。

〇 特に島嶼部などでは避難場所や避難のための手段の確保が難しく、最悪の事態を想
定した避難要領や受入れ体制等について、平素からの備えが重要です。

〇 他方、この段階における自衛隊は武力攻撃事態等に対する準備を実施しており、国民
保護に割り当てることのできる人員や装備は限定的であることから、自治体や関係機
関による支援が不可欠です。

〇 また、弾道ミサイル落下時の行動について政府は、①屋外にいる場合、近くの建物の
中か地下に避難、②建物がない場合、物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守る、③
屋内にいる場合、窓から離れるか、窓のない部屋に移動する、としているものの、北朝
鮮などが核を搭載したミサイルを発射する能力を持ちつつある状況を踏まえ、住民向
け地下シェルター等の設置について本格的に取り組むこととし、具体的な設置基準の
策定を進めます。

8 在外邦人等の保護措置及び輸送

〇 在外邦人等の安全確保、保護、輸送といった措置は、大規模な国際テロ、感染症によ
るパンデミックや大規模自然災害等の緊急事態、朝鮮半島有事、台湾有事など事態によ
って態様が異なっており、その時々の最新の情勢と事態の特性に応じて計画を更新し、
準備と訓練を万全にし、即応態勢の維持に取り組みます。

〇 一方、単に自衛隊による在外邦人等の保護措置や輸送に際しての武器使用権限等を
改めたとしても様々な事態に有効に対処できるわけではありません。地域情報の収集
体制強化と質の向上、外務省と防衛省の緊密な連携、米軍との共同体制及び諸外国との
情報共有の強化、情勢に応じた政府の状況判断と迅速な意志決定について取り組んで
まいります。

〇 また、在外邦人が所在する国家との協力関係の構築や、空港などにおける安全確保や
退避に関し最も実力と経験を有する米国との連携要領について平素から協議し、事態
生起時の調整要領について定めておくことが必要であり、所要の態勢を確立します。

〇 2022 年4 月13 日、日本大使館の現地職員ら外国人だけでも自衛隊機で輸送できるよ
うにする改正自衛隊法が成立しました。2021 年8 月のアフガンにおける邦人等の輸送
に際して顕在化した課題を解決するための改正で、日本国籍を有しない「邦人の配偶者
若しくは子」、「名誉総領事若しくは名誉領事」、「在外公館や独立行政法人の現地職員に
採用された者」を追加することで、日本人の輸送対象者が不在であっても、そのような
外国人輸送のために自衛隊を派遣できることとされました。

〇 一方、台湾有事などの際に大量に発生することが想定される日本と無関係の外国人
退避者の輸送を目的とした自衛隊の派遣の問題は残されたままになっており、今後こ
の問題を解決すべく所要の取り組みを行います。

9 安全保障協力

〇 インド太平洋諸国やアフリカ諸国などの政治体制や安全保障観は多様であるととも
に、国力の小さな国家が多く存在することから、地域の安全保障体制そのものが脆弱性
を有していると言えます。このような国々との協力を推進することは、地域の平和と安
定を確保するための基盤となるとともに、既存の秩序への挑戦を抑止する上でも極め
て重要です。

〇 特に、我が国の生存、繁栄にとって極めて重要な東南アジア諸国に対してODA によ
るインフラ整備や、海洋警察力に対するキャパシティ・ビルディングなど法執行機関の
整備に対して支援を行うことにより、地域の平和と安定の基盤を強化することは、地域
全体の平和と安定、並びに発展のために有効であり、域内諸国との二国間・多国間の安
全保障協力・交流を更に促進していきます。

〇 また、豪州はインド太平洋における平和と安定に貢献する意思と能力を兼ね備え、米
国という共通の同盟国とともにインド太平洋の安全保障に貢献できる特別なパートナ
ーであり、安全保障協力の更なる強化に取り組んでまいります。

10 北朝鮮問題

〇 北朝鮮が開発・保有する核弾頭やミサイルは、日本に対する現実的な脅威です。北朝
鮮の「完全で、検証可能で、不可逆的な非核化(CVID)」を実現すべく、国連決議など
に基づく制裁を行いながらも、対話の必要性を働きかけ続けます。米朝対話を促しつつ
も、日本は条件を付けずに北朝鮮との対話を提案し、核・ミサイル・拉致問題の包括的
な解決を目指します。

〇 主権と人権の重大な侵害である北朝鮮による拉致問題について、これまで関係者が
一体となって取り組んできた国際世論への喚起が実を結び、国連人権理事会が拉致間
題を「人道に対する罪」に認めました。一方で問題の⾧期化により拉致された被害者及
び被害者のご家族の高齢化が進んでおり、若年層をはじめ国内啓発活動の強化などに
よる一層の世論喚起を図ります。

〇 拉致交渉等を政府拉致対策本部及び警察で行い、外務省も含めたオールジャパンで
取り組みます。我が国が主体的に北朝鮮側に対して強く働けることはもちろん、米国を
はじめ、関係各国の協力も得ながら、「特定失踪者」も含め、拉致被害者の即時一括帰
国に全力を挙げ取り組みます。

11 主権・領土

〇 日本の領土を守るため、海上保安庁の態勢を強化し、自衛隊やその他の政府機関との
連携を深めるため、海上保安庁の任務に領土保全を加える海上保安庁法の改正と、組織
法である防衛省設置法の調査を根拠に行っていた情報収集・警戒監視活動を作用法で
ある自衛隊法に明記する自衛隊法改正を実現し、日本の主権を守る態勢を強化します。

〇 尖閣諸島が我が国固有の領土であることは歴史的にも国際法的にも疑いがなく、現
に我が国はこれを有効に支配しています。同諸島をめぐって解決すべき領有権の間題
は存在せず、今後とも平穏かつ安定的に維持・管理していきます。

〇 我が国固有の領士である北方領土については、四島の帰属の問題を解決し平和条約
を締結すべく、これまでの日露間の諸合意及び法と正義の原則を基礎として、ロシアと
の交渉を進めます。

〇 主権を曖昧にした二島(歯舞群島、色丹島)の先行返還は受け入れられません。日本
政府の北方領士に関する主張が後退したと受け取られないよう、政府が北方領土四島
の主権を対外的に周知していくように求めます。

〇 我が国固有の領士である竹島の問題は、国際法に従って平和的な解決を粘り強く求
めていきます。

〇 排他的経済水域等の根拠となる離島の命名など、引き続き「海洋国家」として離島の
安定的な維持・管理のための取り組みを進めていきます。

〇 国際的な企業活動等に従事する在外邦人・企業の安全を確保するための態勢を構築
します。

12 その他

(1)人道支援・人権外交の積極的な推進

〇 「人道支援は積極的に」を原則とし、国連の平和維持活動(PKO)や災害派遣活動に、
自衛隊の救命救急活動の強化や国会による監視など万全の態勢を整備した上で積極的
に参加します。国際的な人道支援活動のニーズに合わせ、DDR (武装解除・社会復帰
支援)、SSR (治安部門改革)などの活動内容をPKO 活動に追加します。なお、現代
のPKO5原則が国際社会のニーズに合致しているかを不断に検証し、国際社会の平和
に「積極的に」貢献できる体制を整えてまいります。

〇 ロシアのウクライナ侵略において、重大な人権侵害事案が多数起きているとの報告
が国連からなされています。また、中国政府による香港あるいは新彊ウイグル自治区で
の人権弾圧や、ミャンマー国軍によるクーデターなど、アジアにおいても看過できない
深刻な人権侵害が複数生起し、現在も継続しています。人権侵害制裁法及び人権デュー
ディリジェンス法の迅速な成立をはじめとした実効的な施策を推し進め、「人権」を重
視した国際秩序の形成に向けて価値を同じくする国々とともに取り組みます。

(2)避難民受け入れ態勢の構築

〇 朝鮮半島有事や台湾有事の際、当該国などから大量の外国人が我が国の領域に避難
を求めてくることが想定されます。安全保障法制施行の際、政府は朝鮮半島有事の際の
避難民について、その保護、上陸手続き、収容施設の設置及び運営、スクリーニングな
どについて検討しているとしていましたが、台湾有事に際して予想される避難民の対
策について準備します。

〇 台湾有事おける我が国への避難先として、南西諸島などが想定されますが、当該地域
の受け入れ基盤はほとんど整っておらず、国の責務として受け入れ支援や通過支援の
ための基盤について速やかな整備します。

(3)気候変動対策の推進

〇 今や世界の平和と安定にとって重大な脅威となった気候変動について、安全保障の
観点から早急かつ本格的な対策に取り組まなければなりません。

〇 我が国においても最近の台風や豪雨、熱波などによる被害は激甚化し、気候変動の影
響に由来する大規模な自然災害による被害は、世界の社会経済活動等に大きな影響を
及ぼすことが懸念されます。

〇 海面上昇による海岸浸食、高潮・高波などによる被害や海岸部の喪失、豪雨による洪
水など、被害が予想される沿岸部や大河川流域の護岸、周辺の重要施設の防護など、ハ
ード面の対策により被害を未然に防止するとともに、災害情報の精度向上とそれに伴
う早期避難のための各種システムや制度の整備、⾧期避難のための受入れ基盤や支援
体制の更なる強化など、ソフト面の対策を効果的に組み合わせ、国民の生命を守ります。

〇 他方、このような対策は被害の拡大を抑制することはできるものの、抜本的な解決策
とはなっておらず、⾧期的には実効性の高い温室効果ガスの排出削減を徹底するとと
もに2050 年のカーボンニュートラルを達成するため、努めて早期に温室効果ガス排出
量の少ないエネルギーシステムへの転換を推進し、日本の地理的特性や気象などに適
った再生可能エネルギーの開発と安定供給の実現を目指します。

〇 気候変動に由来する被害の増大により、国内での災害派遣や、国際的な災害救援活動
及び人道復興支援の機会増大が見込まれることから、防衛省・自衛隊が十分に対処でき
る態勢を整備します。特に、日本には自然災害対策における⾧年の知恵、技術の蓄積が
あるため、それらを活用した国際貢献にも積極的に取り組み、自然災害や気候変動を原
因とする紛争などの予防に貢献します。
以上
 
 
 
 
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維新八策2024
【外交安全保障】

6 国際秩序を創る外交構想と、国民の命を守る総合安全保障

 
我が国の「積極防衛能力」を着実に強化するとともに、国際秩序の再構築を主導し、防衛・経済・資源エネルギー・食料を含めた総合安全保障を推進します。

 
安全保障:総論
 
    •    世界の平和と繁栄に貢献する外交政策を理念として、日本の主権と領土を自力で守る体制を整備し、政権を担える政党として現実的な外交と安全保障政策を展開します。
 
安全保障:積極防衛能力
 
    •    防衛費のGDP比1%枠を撤廃し、まずはGDP比2%を一つの目安として増額することを目指し、他国からの武力による侵略や、テロ、サイバー攻撃、宇宙空間に対する防衛体制を総合的に強化し、国民の生命と財産を真に守れる「積極防衛能力」の整備を図ります。

    •    防衛費増額に伴う財源確保については、増税ではなく、短期的には外国為替資金特別会計(外為特会)の活用や臨時国債の発行を検討し、中長期的には徹底した行財政改革や経済成長による税収増などを通じて持続的に確保することを目指します。

    •    「専守防衛」の定義のうち、防衛力を行使する態様、保持する防衛力等に係る「必要最小限」に限るとの規定・解釈の見直しに取り組み、他国からの侵略に対する抑止力を強化します。

    •    防衛、危機管理、セキュリティなど国内および国際の安全保障に貢献する研究について産官学協力を推進します。

    •    自衛隊員の待遇を抜本的に改善し、任務に応じた危険手当を創設する等、自衛隊及び隊員の地位向上を実現し、必要に応じた増員を行います。国家のために亡くなられた方々への対応・慰霊が不十分である現状を重く受け止め、遺骨の収集や旧軍墓地の国立化を進めます。自衛官等の殉職者への追悼のあり方についても、国家として適切な取り扱いを定めます。

    •    日米が対等の関係に立つことが同盟の維持には不可欠であるとの認識の下、米軍人、米軍属等の犯罪行為に厳正な態度で臨みます。特に沖縄県民はじめ日本国民の生命、身体、財産を守り、法の下の平等を保障するため、日米地位協定を抜本的に見直します。

    •    沖縄基地問題については、日米政府が真摯に対話を重ね、合意可能な新たな基地負担軽減プラン(訓練場所等の暫定的な移転も含む)を示します。また、地方自治体・地域住民との合意形成に必要な手続き法の制定を検討します。

    •    先進諸外国では標準とされている戦争被害補償法制の整備に向けた議論を開始します。

    •    我が国の防衛力の抜本的強化に向けて、中距離ミサイル及び軍事用ドローン等をはじめとする新たな装備の拡充を行います。また、宇宙、サイバー、電磁波といった新たな領域における防衛体制をさらに強化します。

    •    ロシアが核兵器による威嚇という暴挙に出てきた深刻な事態を直視し、核共有を含む拡大抑止に関する議論を開始します。また、防御・反撃・制裁に関する手続きを日米間で確認し、抑止力の実効性を高めます。

    •    国際社会でポスト核拡散防止条約(NPT)体制を追求するべく、核軍縮に向け新たなテーブルを構築します。

    •    憲法第9条については、平和主義・戦争放棄を堅持した上で、自衛隊を明確に規定します。

    •    集団的自衛権行使の要件を明確化するため、現行の「存立危機事態」の要件に代えて、「米軍等防護事態」(日本周辺で、現に日本を防衛中の同盟国軍に武力攻撃が発生したため、わが国への武力攻撃の明白な危険がある事態)を規定します。

    •    偶発的な武力衝突を回避するため、日中当局間の「海空連絡メカニズム」等の措置を取れるよう、自衛隊および海上保安庁の体制を強化します。

    •    我が国を取り巻く国際情勢に鑑み、領海などにおける公共の秩序の維持を図るため、わが党が提出した自衛隊法及び海上保安庁法の改正案を成立させ、自衛隊の部隊による警戒監視の措置及びその際の権限について定めるとともに、海上保安庁の任務として領海の警備が含まれることを明記します。
 
安全保障:ハイブリッド戦対応力
 
    •    海外からの投資を呼び込みやすい環境を整備し、自由で開かれた貿易投資を実現すると同時に、経済安保・技術流出防止の観点から、我が国の安全を脅かす投資については、実効的かつ機動的な対応を行える立法措置を検討します。

    •    現行の経済安全保障法制の実効性を担保するため、わが党が提出した経済安保実行化法案に盛り込んだ罰則の適用や実施能力の強化等、具体的な措置の拡充を行います。

    •    防衛施設周辺や国境離島の土地等が外国人・外国企業に購入され、我が国の安全保障を脅かす事態が生じていることに鑑み、国家安全保障上重要な土地等の取引等については厳格に規制を強化します。

    •    米国のCIAのような「インテリジェンス」機関を創設するとともに、諸外国並のスパイ防止法を制定し情報安全保障を強化します。

    •    世界的なエネルギー価格高騰や、ウクライナ危機等によるエネルギー安全保障の観点から、安全性が確認できた原子力発電所については可能な限り速やかに再稼働します。長期的には、エネルギー安全保障確保や脱炭素社会実現とのバランスの中で、既設原発で老朽化したものについては市場原理の下でフェードアウトさせます。

    •    食料安全保障上の重要な指標である「食料自給力指標(米・小麦中心の作付け)」に基づき、食料自給率の向上を図ります。自給率の高いコメの消費拡大策を推進するとともに、自給率の低い穀物や飼料等の国内生産を拡大します。

    •    食料安全保障を確立していくため、食料自給率の量的な向上だけでなく、米国、豪州といった同盟国、友好国等貿易相手国との二国間関係を踏まえた食料・飼料等の安定供給に関する定量的なリスク検証を徹底し、質的な観点を取り入れた戦略的な対応を進めます。
 
安全保障:平和を創る国際秩序

    •    ウクライナ危機において国連安全保障理事会が世界の平和維持システムとしての機能不全を起こしている現状を踏まえ、拒否権の廃止を含む抜本的な改革を求めるとともに、必要であれば国連に代わる新たな国際秩序の形成を目指します。同時に、国際機関における要職に日本人を送り出し、財政的貢献だけでなく人的貢献を図り、我が国のプレゼンスをより一層向上させます。

    •    国連平和維持活動(PKO)において、明確な停戦合意が確認できない地域で活動するケースが増えていることから、「PKO5原則」の実態に合わせた見直しを検討し、国際平和への積極的な貢献を推進します。

    •    東アジアの安全保障環境が厳しさを増す中、日米同盟を基軸とし、米英豪印台など価値観や課題意識を共有する国・地域との海洋国家ネットワークを深め、我が国の防衛力を強化します。

    •    過剰な海洋権益を主張し国際社会の脅威となる国家に毅然とした対応をとるため、オーストラリアやインド、ASEAN諸国など「航行の自由作戦」に参加した諸外国との連携を強化します。

    •    他国の武力攻撃を受けた際の国民保護や、国外で紛争が発生した際の在留邦人の保護について、国内外の事例を参照しつつ現実的な措置について検討します。その際、人道回廊等の設置には相手国との一時的・局所的停戦が必要であるため、有事の際でも双方に合意を履行させる国際的な仕組みの整備を働きかけます。
 
外交:周辺国
 
    •    ウクライナ危機を踏まえ、ロシアとの新たな外交関係についてはゼロベースで抜本的な見直しを行います。その上で、不法占拠が続く北方領土については早期返還を目指します。

    •    中国は経済面において互恵的関係の構築に向けて対話を重ねる一方、香港やウイグル・チベットのように、自由・民主主義・人権の尊重・法の支配が懸念される事態が生じた場合は毅然とした対応を行います。また、尖閣諸島や台湾における力による一方的な現状変更の試みは一切容認できない立場を堅持します。

    •    日台間の関係強化に向けて、日本版の「台湾関係法」を制定及び二者間のFTAの締結を目指します。また、台湾との情報共有を進めるため交流協会の駐在防衛担当を退職自衛官から現職自衛官の出向とし増員を図り、駐日台湾公館の公的化を図ります。台湾の国際関係機関へのオブザーバー参加を後押します。

    •    北朝鮮の拉致問題及び核・ミサイル開発等の問題については、国際社会と連携して断固たる措置を実施します。特に拉致問題については今世代で解決すべく、一日も早いすべての拉致被害者・特定失踪者の奪還に向けて真相究明と外交努力を尽くします。

    •    韓国内で発生した旧朝鮮半島出身労働者(徴用工)問題や、日韓の領土・安全保障に関わる事態については日本の立場と国益に基づく毅然とした対応を取りながら、未来志向の日韓関係を構築します。

    •    歴史的に友好関係にあるアラブ諸国との関係を強化し、対話を通じた中東和平の実現に向けて日本独自の役割を果たし貢献します。
 
外交:他地域・世界

    •    中南米に存在する世界全体の約6割を占める200万人以上の日系人及び日系コミュニティと連携し、二国間の友好関係を強化するとともに、国際社会における日本の存在感を高めます。

    •    アフリカは世界の成長と平和構築に関して大きな潜在性を秘めていることを認識し、通商関係強化と社会課題解決に取り組みます。日本へのアフリカ人留学生や就労者をネットワーク化し、日本とアフリカを繋ぐ架け橋をつくります。

    •    EPAを基軸として域内経済連携に積極的に関与し、世界規模での自由貿易の推進、自由主義経済圏の拡大をはかります。TPP11については、覇権国家である中国の加盟希望については慎重かつ戦略的に対応しつつ、台湾や英国などの参加を積極的に促し、経済連携を深めると同時に経済安全保障の強化を図ります。

    •    ODA予算を有効活用し、積極的な対外支援策に転換させることで、途上国との友好と経済安全保障を促進します。

    •    国際的な人権侵害が頻発している事態に鑑み、人権侵害を行った個人・団体を対象とし、ビザ規制や資産凍結などを行う人権侵害制裁法の制定を検討します。
 

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