勝連・うるま③ 保安林問題1・踏みにじられてきたもの

 
 

勝連分屯地の保安林問題1
 



勝連分屯地の南東部一帯は、保安林に指定されています

赤い枠が勝連分屯地にかかっている保安林指定箇所。資料:ミサイル配備から命を守るうるま市民の会
 
 勝連分屯地の一部は、保安林を伐採し、形質変更された場所に造られています。(2023年2月27日、「ミサイル配備から命を守るうるま市民の会」が、記者会見でこの事実を公表)

保安林の伐採や、指定区域内の土地の形質変更を許可なく行うことは、森林法で禁止されています。

沖縄県は、従来から保安林の違法開発には厳しく対処し、現状回復をさせてきました。

保安林指定区域内に、地対艦ミサイル配備に向けて改修予定の弾薬庫と、今後地対艦ミサイル部隊も使用する予定の地対空ミサイル車両広場の約半分、などがあります。

今後法律が守られるならば、保安林は復旧されなければならず、現状のままでは地対艦ミサイル部隊の配備などできません。




保安林のはたらき

 
森林は、木材を供給するだけでなく、水をはぐくみ、災害を防ぎ、心に安らぎやうるおいを与えるなどの大切な働きをしています。こうした森林の中で、私たちの暮らしを守るため特に重要な役割を果たしているものについては、農林水産大臣または県知事が森林法に基づいて保安林に指定し、常にその指定の目的に即した働きがでるように必要な措置を講じています。(沖縄県ホームページより)

 保安林は、人びとが環境を守りながら土地に根ざして暮らしていくために、たいせつな役割をもっています。特に沖縄県は台風が発生しやすい地域であり、海から強い風が吹きつける島じまです。保安林の保護は死活問題になります。沖縄県では目的・役割に応じた12種類の保安林を定めています。

沖縄県の保安林:沖縄県ホームページの記載をもとに作成
 
 勝連半島(与勝半島)は、太平洋に突き出した、幅2~2.5km・長さ8kmほどの細長い半島です。その南西側の海岸をふちどる小高い丘を覆う森林が、くり抜かれた場所に勝連分屯地があるのが、航空写真から窺えます。かつての日本軍の高射砲陣地や、米軍の核ミサイルや対空ミサイルの基地が、そういう森林をくり抜いて造られてきたことが分かります。

 海岸に近接する小高い丘の「へり」に当たる勝連分屯地の南東部一帯は保安林に指定されていて、その目的は風害の防止です。


資料:ミサイル配備から命を守るうるま市民の会



保安林違法開発の概要

1912年、現在の勝連分屯地の南東部を含む一帯が、旧森林法(1897年制定)に基づく保安林に指定されました。

保安林を大規模に伐採し形質変更したのは琉球列島米国民政府時代の米軍です。1945年4月に米軍が勝連半島を占領。1960年代には、勝連半島は米軍の核ミサイル攻撃拠点とされました。その際に保安林が伐採されたものと思われます。

しかし最初に伐採したのは、ここを高射砲の陣地とした日本軍です。当時の航空写真から、その事実が確認されています。

1973年5月、米軍から引き継ぐ形で、勝連分屯地が開設されました。この際に、日本政府にはこの一帯を森林に回復する責任があったし、今もあります。しかし政府・自衛隊は森林に戻すことをせず、さらに形質変更を進めてしまいました。

1975年4月24日、沖縄県知事は新しい森林法(1951年制定)に基づき、この一帯を再度、保安林に指定しました。指定の目的は「風害の防止」。

1975年の再指定後、2011年から2013年にかけて、米軍が設置した施設を撤去しコンクリートで舗装するなど、防衛局は保安林指定区域内で4件の工事を実施しています。

現在、地対艦ミサイル部隊配備に向けて、基地内で様々な工事が行われています。そのうち、改修予定の火薬庫と、ユーティリティ改修予定の受変電・給水施設の2つが保安林指定区域にかかっています。

 
…つまり、勝連の保安林違法開発は、旧森林法時代:①日本軍による伐採・形質変更米統治時代:②米軍による伐採・形質変更現森林法時代:③防衛局による2011~2013の4つの工事④防衛局による今回の2つの工事、の4つに大別できます。



米軍に開発された保安林区域内施設と、今回の2つの工事(②と④)

 2023年2月27日、「ミサイル配備から命を守るうるま市民の会」は記者会見を行い、沖縄防衛局の森林法違反の事実を公表。以来、市民の会は防衛局や沖縄県との交渉を重ねてきました。


 
 勝連分屯地の一部が保安林指定区域であるという事実は、県も防衛局も認めています。3月8日の時点で、「速やかに現地調査が行えるように取り組む」とした上での、沖縄県の見解は以下のようなものでした。(森林管理課長の回答)


…森林法違反が認められれば、当然、工事は中止。そこにミサイル部隊の配備などできない。森林へ復旧させる。違反行為には行政処分が課せられる。そういう、森林法に基づいた当然の対応が「一般論」として確認されました。(しかしその後、防衛局との「調整」が働いたためか、沖縄県の見解が傾斜していくことになります。)

 これに対して、まず、保安林指定区域を森林へ復旧させるという点について、昨年8月18日の現地視察会で示された防衛局の見解は、

 
…「復旧する考えはない」と。「米軍により開発されたもの」で、森林が既にそこにないという状態で「50年間、問題なくやってきた」ことが強調されました。そしてこの日、伊藤晋哉防衛局長は、「保安林に指定されたままになっている」という表現を何度もくり返しました。理不尽だ、と言いたいのでしょう。

 「指定されている」という事実を、「指定されたままになっている」と自分たちに都合良く言い換える。これは事実の歪曲にほかならず、公務員が取るべき態度ではありません。これについては、参加者もその場で表現の撤回を求めています。
 
 勝手に開発された保安林は、森林に戻されなければならず、1973年に米軍から返還された時点で、日本政府には復旧の義務があったし、いまもあるはずです。「支障がなかった」という主観的な判断で、違反したことが帳消しになるはずもありません。それにしても、50年以上にわたって実質的に支障がなかったというのは本当でしょうか?

 
 次に、保安林指定区域内での工事は中止してもらう、という点についてですが、今回改修工事が計画されている火薬庫は、「多分半分以上保安林に指定された区域にある」(8月18日)と、防衛局も認めています。(ユーティリティ改修については、受水槽などの電機関連工事を行うが、受水槽の部分については保安林の指定から外れたところにある、としています。)しかし、火薬庫の改修は森林法上の形質変更には当たらないので問題ない、との認識です。

 形質変更の上に存在しているものを改修してもそれは形質変更ではないから問題ない…などというおかしな話があるでしょうか。形質変更が問題である以上、火薬庫は撤去されなければならず、森林に戻すべき場所での改修工事などあり得ない。

資料:ミサイル配備から命を守るうるま市民の会



防衛局自身による4つの工事(③)


 防衛局は、2011年から2014年にかけて、保安林に指定された範囲で4件の工事を施工したことは認めています。

(ところで、防衛局は勝連分屯地の一部が保安林に指定されていることを知らなかったのでしょうか。この件については、今回の県の指摘ではじめて把握した、というようなことを防衛局長は言っています〈8月18日〉。では2011年~の工事は知らずに実施したのか、というと「具体的なそこまでの確認はなかなか難しいが、承知はしていなかった」というふうに防衛局長は言っています。土地登記簿の地目は「保安林」になっているし、防衛局は土地所有者と土地賃貸借契約を交わしており土地登記簿も確認しているはずだ、という指摘には、「保安林になっているものの森林ではない状態でしたので、そういう位置付けで何か工事をする際に、そこが保安林だという認識を持ってなかったというところです」と防衛局員は言いました。とにかく「確認中」とのことです。)


 「アスファルトを敷き直したりということはしています」と、防衛局長は言いました。現地説明会(8月18日)の時に地対空ミサイル車両広場で、「まさにこのアスファルトなどは既に米軍時代から林がないものですから、新たに何か林をいじるということはしていない」と、森林の伐採をしていないことを強調しました。これが4件の工事のひとつ目(2011年)です。

 冒頭に記した通り、森林の伐採だけでなく、土地の形質変更も森林法で禁止されています(第34条2項)。森林が既になくなっていても、指定された場所を形質変更すれば、森林法違反です。
 防衛省自身の手で、森林法違反の形質変更が行われていました。

資料:ミサイル配備から命を守るうるま市民の会
 
 保安林指定区域であり、なおかつ防衛局自身が形質変更したこの場所を、地対艦ミサイル部隊も使うことになる、ということです。

 
 
1975年、沖縄県は再度、この一帯を保安林に指定した
 
 この10年の間にも、勝連分屯地の火薬庫から120mほどの距離にある米軍のレーダーが台風で破損し、破片が散乱したことが2度あったと、地元の方が言っています。2013年の法面工事も、保安林が伐採されていた部分が崩落したために行われたのだといいます。



  本当に、保安林がなくても支障なくやって来れたのか。そして、これからも支障なくやっていけると、言えるのでしょうか。ごまかして済む問題でしょうか。

 防衛局は、保安林の指定解除を望んでいます。おそらくその方向で県との「調整」が進められています。それで、指定が解除されさえすれば、魔法のようにこの問題が消えてなくなるとでも言うのでしょうか。

なぜここに保安林が必要なのか。保安林の重要性を、防衛局は無視してはならない。
県の毅然とした対応を期待したい。
(「チョイさんの沖縄日記」8.18より)



踏みにじられてきたもの

 大きな力を持つ者が、自分たちは傷つかずに利益を得る、そういう戦争の陣地を「遠く」につくるために、まず土地を奪い、それから、人びとがそこで生きていくために必要なものをひとつひとつ奪っていく。この百年にわたって日本軍に米軍に自衛隊に踏みにじられてきた保安林は、そうしたものの代表ではないでしょうか。
 
 沖縄県はそれを手放していいのか。法的にも解除はできないはず…▶勝連・うるま④ 「勝連分屯地」を森林に戻せ!に続きます。


▶詳しくは▶「チョイさんの沖縄日記」…タグ〈南西諸島軍事強化問題〉
https://blog.goo.ne.jp/chuy/c/1772c3df4a575f17166ae5aa9b36d8da

▶『3月10日、200名が中城湾港、勝連駐屯地前に座り込み---陸上自衛隊勝連分屯地への地対艦ミサイル配備阻止闘争』(チョイさんの沖縄日記)

▶『陸上自衛隊ミサイル部隊の車両陸揚げ、勝連分屯地への配備に対する阻止行動』(海鳴りの島から・目取真俊さんブログ)


◆3月18日(月)18:00~19:00、官邸前行動を予定しています。
【勝連をもう2度とミサイル半島にさせない!】
ー与那国島、石垣島、波照間島、宮古島、下地島、北大東島、久米島、入砂島、伊江島、沖縄島、沖永良部島、徳之島、奄美大島、喜界島、臥蛇島、種子島、馬毛島、九州島…島じまを奪って戦争をつくるな!

呼びかけ:島じまスタンディング、STOP大軍拡アクション
 
ぜひご参加ください!
 
2023.8.18官邸前/写真:杉原浩司さん

 

コメント